昔 私は思つてゐたものだつた 恋愛詩なぞ愚劣なものだと
今私は恋愛詩を詠み 甲斐あることに思ふのだ
だがまだ今でもともすると 恋愛詩よりもましな詩境にはいりたい
その心が間違つてゐるかゐないか知らないが とにかくさういふ心が残つてをり
それは時々私をいらだて とんだ希望を起させる
昔私は思つてゐたものだつた 恋愛詩なぞ愚劣なものだと
けれどもいまでは恋愛を ゆめみるほかに能がない
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(憔悴 中原中也 より) |
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