んやりとスクリーンセーバーを見ていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。知らずにたまっていた疲労と、アルコールがそれを促したらしい。モニターの前のデスクに突っ伏して、僕は眠っていた。

隣の部屋は明かりが点きっぱなしだった。そっとドアを開けて伺う。

彼女の鳴き声は聞こえなかった。そのまま部屋を横切り、静かにベッドルームのドアを開ける。

寝息が聞こえた。枕に巻いていたバスタオルが、しわくちゃになって彼女の手に巻き付いている。たぶん、それは涙で濡れているだろう。眠ったままそうしたのか、寝ることを決めてそうしたのか解らないが、浴衣の帯は解かれ、乱暴にベッドの下に落ちていた。浴衣をシーツ代わりにして、身にまとっていた。

窓の外から雨の音がした。ようやく周期的に天気が入れ替わる、秋の様相が濃くなってきた。雨が上がれば、少しは昼間も過ごしやすくなるかもしれない。浴衣はちょっと、夜は冷えるかもしれない。

僕はそっと、彼女の足下にシーツを掛ける。素足が何とも、寒そうだった。

そして、そのままベッドルームを出て、リビングに戻る。雨の音はずいぶんと激しかった。僕は、どこか窓を開け放したままの場所はないか、一通り見て回った。ついでに、仕事場のパソコンの電源を落とし、部屋の電気も消す。

いっそう雨の音が部屋に響いているような、そんな気がする。僕は間接照明も落として、真っ暗なリビングのソファに座った。

不意に、窓の外が光った。白い閃光は、たぶんどこかで雷が鳴っているのだろう。ただ、音はしないので、相当遠くだ。すぐ近くの夕立なら、きっと雨は止み、強い下降気流が発生するはずだ。外が雨粒でけたたましいうちは、たぶん大丈夫だ。

僕はこのままソファで眠ることにした。女性の涙の跡には、時間を置くのが最適だ。乾くのを待ち、彼女がそれを乗り越えた所で、謝るなり弁解する方がイイ。下手に感情の高ぶったままで言葉を重ねると、あまりいい結果を生まないのが、僕が経験上から知ったいくつかのことのうちのひとつだ。

今は彼女が一人、泣き疲れて眠っている、それを妨げない、最大限の努力をした方。その中で、いくら僕が彼女のことを愛していても、僕は最大の邪魔なのだ。くわえて、雷が彼女の睡眠を妨げないことを祈る。そんな気分だ。

僕はソファに横になる。両手を頭の上に伸ばし、足先も吊りそうになるまでのばす。それほど背の高くない僕だけど、ソファをはみ出してしまう。でも、案外、僕はどこでも眠れる体質だ。

雨の音はひっきりなしだ。僕は僕の独りを、今は横たえようと、と深呼吸した。

   

 か夢を見ていた記憶があるが、それがなんの夢だったかはっきりしない。ひどく窮屈な、それほど覚えていて甘美な余韻に浸れるような夢ではなかったことだけは、感覚で覚えていた。

目を開けるとリビングはすっかり明るく、雨の音も小さくなっていた。周囲を見回すと、僕の傍らに、ちょこんと座る彼女がいた。浴衣のままだが、ちゃんと帯を締め、身形を正している。化粧はしていないが、涙の跡は消えている。シャワーの後の石鹸の香りがうっすらとする。

おはよう、と僕が言うと、彼女は消え入りそうな声で、おはよう、と言った。ばつが悪そうに、うつむく。

僕は彼女に手を伸ばした。彼女の前髪を、さらさらと撫でる。彼女の距離感が、未だ続くとまどいを表しているようだ。

「よく眠れた?」

彼女は頷く。そして、顔を上げ、またうつむく。また顔を上げ、そうやって何度か首を振った後、意を決したように、僕を真っ正面から見据えた。

僕は上半身を起こして、ソファに座った。わずかに残ったアルコールが、頭の芯に絡みついているせいで動作が鈍い。それでも、彼女は僕を見据えたまま、待っていた。

リビングに差し込む朝の光は、雨空のせいでひどく緩い。まだ、夜が明けて間もないのかもしれない。

「昨日のことは・・・」

彼女が口を開く。意を決したはずなのに、またうつむく。うつむいたまま、口を小さく開く。

「ごめんなさい」

微かに、彼女の頬に紅が差す。照れているというより、決意の反動のような感じだ。

「気にしなくて好いよ」

慣れている、と言いそうになって、僕は慎重になる。起き抜けでも彼女のことになると、頭は働くようだ。

「お互い様だよ。別に、君だけが悪いとは思ってないよ」

それよりは、どちらが悪いという問題でもなく、僕らはそういうステップに足を踏み入れただけだ。ほんとうに気にするほどのことでもなく、そうやって互いの感情の置き場を、ひとつひとつ確かめ合っていければいいのだ。

「それよりも、一緒にシャワーを浴びようか」

「ゴメン、先に入っちゃった」

「好いじゃないの、もう一度入れば」

ついさっきだよ、と言いかけて、彼女は少し笑顔になった。僕はその手を強引に引っ張った。

 

女は朝一番、シャワーではなく、バスタブに湯を張ってしっかり入浴していた。僕は湯を足して、湯に浸かる。二人で入るには、バスタブは狭い。横に並ぶと、僕らの肩は自然に触れ合う。

「パパって、私の昔の恋愛話とか、あまり聞かないね」

そうかな?と僕は考えてみる。というより、そういうことも含めて、僕は彼女のことを良く知っているような気がするのだ。それは、嘘か本当かは解らないにしても、ネット上でも週刊誌でも、まことしやかに男性遍歴が載っていたりする。

それに、一度、また僕らがこんな風に知り合っていなかった頃に、彼女が写真週刊誌に出ていたのを良く覚えている。当時、売り出し中の背の高い彼女と同い年のタレントのマンションから出てきた所を、カメラは捉えていた。

そもそも、僕はあまりそういう記事には興味なく、その時はただ読み飛ばしてしまったが、そういう記事があったことははっきりと覚えていた。

「そういうことを詮索する歳でもないしね。それより、俺の方が聞かれるとまずいことがいっぱいある」

たぶん、僕が彼女を、彼女の口以外から情報を仕入れているように、僕のことも彼女は知っているはずだ。どうしようもない過去などの方が、ずっと人々の興味を引く。非難を浴びることの方が、浸透率は高い。その波に、僕らも例外なく混ざっているはずだ。

冗談口のつもりで、言った言葉だったが、改めて僕はハッとする。案の定、彼女は敏感だ。

「ユウさんとも、何かあったってこと?」

イヤ、そういうワケじゃなくて。

「ゴメン、大丈夫。考えてみれば、そうだよね、お互い大人なんだし」

「うん。でも、気にする人と、気にしない人がいて、それはその人それぞれだから、一概には悪いとは言えないよ。ちゃんと説明しない方が悪いのかもしれない」

彼女はバシャッと、音を立てて顔を洗った。濡れたまま、首を左右に大きく振った。

「違うの。そうじゃなくて、コレは私自身の問題」

彼女はそう言って、僕の肩に頬を預けた。熱めの湯が、彼女を上気させている。

「前の彼氏とね、分かれたのが、コレと同じ感じだったの。私がひどく、ジェラシーに狂っちゃって、彼氏を問いつめて。それで、ウザイとかいわれて、けんかになっちゃって」

僕はぼんやりと、あの写真週刊誌に載っていた、男性タレントの顔を思い浮かべる。僕など全く及びもしない、端整な顔立ちをしている。

「別に嫌われるとか、そういうことは大丈夫というか、それもショックかもしれないけど、その時、彼氏がウザイ、って思うよりずっと私自身が、ウザイ、って自分に思っちゃって、それが堪らなくイヤだったの」

「ウザイ、ってホントに良くない言葉だよな」

嫌い?と彼女は僕に問う。僕は頷く。

「否定的な言葉は、響きが良くない。良くない響きは耳障りだ。一応コレでも、長いこと趣味でギター弾いているからね。趣味だけど」

人の知恵というモノは、どうしても否定的に使わなければならない言葉を、なるべく濁りがないように努めてきた、と僕は思う。それでも、時代と共に新たな意味が付け加わり、否定的な意味がどんどん、響きを濁らせていく。そんな危惧を、僕は時々感じていた。

それは手の暴力よりも、もっと質が悪いと思う。言葉の暴力は、力が見えない。見えないから、静かにそれはやってきて、対象を破壊する。

「言葉でもなんでも、美しさを追求すれば、きっともっと、文化とか社会というモノは改善すると思うんだけどな」

「それで人は変われる?」

僕は二度、頷く。

「君がウザイ、という言葉を拒否して、自分を変えようとしたことが良い例だよ。その品性が、きっと美しさを保つ秘訣なんだろうと思うよ」

難しそうな顔をして、彼女はしばらく僕を見つめていた。でも、納得したのか、ようやく、いつもの朗らかな笑顔を見せた。

「とにかく、嫉妬深いのはやめにしよう、と心に誓ったんだ。何しろ、あの時は、あまりのジェラシーに彼氏だけじゃなく、仕事まで影響しちゃって大変だったんだ」

彼女は湯から身体を出し、バスタブの端に腰掛けた。ふぅ、と息を吐く。

「パパってそういう所、やっぱり落ち着いているっていうか、達観しているっていうか。イメージだけど、そういう感じがするんだけど。だから、パパと一緒なら、大丈夫かな、って思ってたんだけどね」

「そうでもないよ。ジェラシーっていうのも、人間の感情のひとつだろ?そういうことは、僕らみたいな表現に携わる者にとっては、必要なんじゃないかな」

「でも、悲劇しか生まないとは思わない?」

「悲劇も商売にするのが、僕らなんだよ」

かもね、と彼女はうつむく。

「でも、だからこそ、こういう普通の生活では、ジェラシーよりはもっと、大事なモノがあると思う」

それは同感だ。

「互いに慈しむ、って昔からうちのお父さんが言っていた。うちの家訓だ」

彼女はもう一度、自分で確かめるように、互いに慈しむ、と繰り返した。

「美しい言葉だよ」

でもそれは、ただ一人に向けられるモノではなく、きっと嫉妬というモノの反義語として存在するはずだ。だったら、慈しむ心を大事にすると、きっと誰かが犠牲になる。独占を望んでいるモノには、つらい試練が待っているはずだ。

そこまで解って、彼女がそれを望んでいるかどうかは、定かではない。

「とにかく、ユウさんはキレイで、頭が良さそうで、社交的で、パパにはお似合いだよ」

「だから・・・」

彼女は僕を制止するように、頭を振った。

「何かあったとしても、それは仕方が無いかもしれない。それはユウさんのせいじゃなく、きっと私に魅力が足りないせいだよ。私は私で、もっとパパにお似合いになる努力をしないと」

それは僕自身にも言えることで、僕も彼女に似合う何かを、探さないといけない。

「急ぐ必要はないよ。俺はそこら辺、ゆっくりでイイと思っている。たぶん、俺にはちゃんと話さないといけないことが、たくさんある気がする」

彼女はほほえみを絶やさないが、きっと僕と彼女が思い浮かべているモノは同じはずだ。そしてそれを知るのは彼女に与えられた権利であり、僕は話す義務がある。正直に、なれる自信が、果たして僕にはあるだろうか。

「恋人同士でも、触れてはいけない部分があるって言うけど?」

「まぁ、それもそうなんだろうけど、俺はそういうものを作らないようにしたいと思っている。聞きたければ、なんでも応えるよ」

彼女はもう一度湯船に浸かった。何度も何度も顔を洗う。

「今は、いい」

それだけ言って、のぼせそう、といってバスタブを離れた。

 

肌にそのまま浴衣を付けて、彼女はリビングでごろりと横になった。フローリングが気持ちいい、と伸びをする。僕はTシャツに、半ズボンのだらしなさで食卓テーブルのイスに腰掛けた。

湯冷ましに、東のベランダに向いたガラス戸を開ける。雨はまだ降り続いていた。風が冷たく、湿気がひどかった。しかし、今はそれで充分だった。

その時、ベッドルームからケータイの呼び出しベルが鳴っているのが聞こえた。僕のケータイは仕事部屋においてあるので、彼女のモノだった。彼女はひどく鬱陶しそうに、緩慢な動きで立ち上がる。たぶん、ゆっくり時間をかけているうちに、電話が鳴りやまないかと思っているに違いない。

しかし、電話のベルは執拗に鳴り続けた。僕は壁掛けの時計を見た。八時を少しすぎていた。

仕方なさそうに、彼女はベッドルームへ向かう。やがて呼び出し音が消え、彼女の声がする。

聞き耳を立てていたわけではないが、テレビを点けるわけにも行かず、自然と声を聞いてしまう。だが、彼女はあまり話をせず、相槌ばかり打っていた。相手の方が一方的に用件を伝えてきているのだろう。自然にそれが、仕事の話であることは明らかだった。

僕は立ち上がり、玄関に向かう。ドアに朝刊が差し込まれていた。それを抜き取り、またリビングに戻る。電話は続いていた。

僕は電話を意識しないように、新聞に目を通した。一面を隈無く、読むのが日課になっている。

一面を読み終え、一枚めくると、僕が師匠と慕っている作家先生のコラムが載っていた。目を奪われ無心で読み進める。

読み終わった頃に、彼女もベッドルームから出てきた。ひどく浮かない顔をしている。どうしたの、と聞くと、うん、といって僕の向かい側に座った。

「金曜の夜に、テレビの生放送の仕事が入ったんだって」

今日は月曜日で、四日後の夜ということになる。そういえば、今日は月曜日だが、祝日になっているはずだ。この分だと、生憎の天気、ということになりそうだ。

彼女は、旅に出る前に一応、僕のところに来ることをマネージャーに告げてきていた。それが初めての僕とのつきあいの告白であったらしく、若い男性マネージャーは相当に困惑したらしい。それが原因で、彼女の仕事をブッキングした、というのは邪推だろうか。

そもそも、彼女のスケジュールが不意の出来事で急に空いた、とはいえ、二週間もあれば他の仕事を入れない方がおかしいだろう。彼女は、そうはいっても売れっ子なのだ。

「仕事だと仕方が無い」

頷く彼女は、本当にがっかりした溜息をついた。そういえば、まだ香川の観光らしい観光もしてないし、ずっと一緒に居た割には、はっきりとした満足感もなかった。しかしそれは、どんなに時間をかけても無理かもしれないけれど。

「飛行機の手配が済んだら、また連絡するって」

そうか、としか応えられなかった。僕は新聞を閉じて、彼女に向き直る。

「でもまだ三日は充分に一緒にいられるんだから、その間のことを考えようよ。どこか、行きたい所ある?」

そうだね、といって彼女は無理に笑う。決して仕事がイヤなわけではないだろうが、彼女もきっと何か、はっきりとした何かを欲しているはずだ。

「今日は雨だから・・・」

彼女は外に視線をやる。雨に煙る街は、灰色に染まっていた。

「今日は一日うちにいる」

きっぱりと、彼女はそう言いきった。まるで一大決心のようだ。

「イイの?近くでも、行きたい所があれば」

「買い物は行きたいけど、それよりは、パパの生活、普段の生活を見てみたい。それに、ゆっくりしたい、って前にも言ったじゃん」

そういえばそうだ。確かに、観光といっても、香川が他県に誇れる観光地など、コレといってない。あってもそう多くはない。第一、彼女が行きたい所、といってもたぶん、僕というインターフェースがなければ、彼女は香川の観光地の情報など、知っているはずがない。

ただ、香川は人が住むには好い所だとは思う。第一災害が少なく夏でも冬でも何かが滞る、被害を心配する、ということがあまり無い。時々水不足はやってくるが、それもだいぶ改善はされている。適度に街にはなんでもあるし、今のネット社会なら、送料さえ気にしなければ、なんでもどんな土地でも手に入らないモノはない。それどころか、人口の割に香川はコンビニが多いことで有名だ。

つまり、衣食住が飛び抜けて充実しているわけではないが、全くないわけでもなく、そこそこ、充実しているのだ。それを阻むモノ、予定を狂わせる要素があまり無い、ということなのだ。

それはたぶん、満足はいつまで経ってもえられないが、不満が新たに発生することもない。まさに、人が住むのに適した場所なのだと思う。

そういうことを意図して、彼女が普通にゆっくりしたい、と言ったわけではないだろうが、でも、悪い提案だとは思わない。あえてどこかに連れて行く、ということなら、この旅の間ずっとやってきたことなのだから。

「ねぇ、パパって、いつもはどういう生活しているの?」

僕はこの部屋にいる限り、いつも規則正しい生活を送っていた。とはいっても抜け道は多く、おおざっぱに時間帯を決めているだけだ。

それは、午前中は読書に費やす、という決めごとから始まる。朝起きる時間が決まっていないので、あやふやではあるが、とりあえず朝起きてから昼まで、という時間帯に僕は本を読むことにしていた。

元々僕は本を読む習慣に慣れておらず、それを克服するために自分にこの時間を課した。それがいつの間にか、日課として定着してしまった。

そしてだいたい昼頃に昼食を摂って、シャワーを浴びたりする。それからメールチェックをしたり、そこからだらだらと過ごしながら、仕事のタイミングを待つ。音楽でも、文章でも、とっかかるまでが長い。重い腰がなかなか上がらないタイプなのだ。仕事したくて堪らない、ということが年に数度あるが、ほとんど滅多なことではない。

そうやって夜中まで過ごし、日付が変わる頃に夕食を摂って、ブログを更新して寝る。そういうサイクルだ。

「体に悪そう」

僕が一通り説明すると、彼女はそう言った。さらに、こう付け加えた。

「他人が入る余地の全くないスケジューリングだね」

それもそうだ。こういう生活になって、僕は他人を交えて日々を送ったことがない。ユウでさえ、このスケジュールの中で、対処する。唯一外で仕事がある時だけは、スケジュールにこだわらないが、それでも午後からにしてもらって、午前中の読書は欠かさない。

「今急ぎの仕事とかはないの?」

「締め切りが差し迫ったモノはないよ」

でもいくつか、やって置いた方が好いことはあった。

「とりあえず、パパのスケジュールに合わせるよ。今日一日はね」

「じゃあ明日は、観光しよう。行きたい所、探しておきなよ」

そうだね、といって彼女は笑った。僕は新聞の続きを読み始めた。

 

れでも好きなものを探しなよ、といって、仕事部屋の棚を指さすと、彼女は上段の隅からゆっくりと眺めていた。僕のスケジュールに合わせるから、といって早速始めた一日だったが、新聞を読んだり、一人で朝食を摂ったり、最後には独りバタバタとストレッチを始めたが、点けたテレビが何処も時代劇の再放送か、情報番組だったので、僕に助けを求めてきた。

何か読んだら、と勧めたら、彼女はまず僕が読んでいるハードカバーを見てから、背後の棚を見渡した。本当に一冊一冊、背表紙を確認するように、時間をかけて彼女は本を選んだ。途中から僕は、自分の読書を再開した。

決まった、といって何冊か手にした中の一冊の、表紙を僕に向ける。

彼女が選んだのは、官能小説だった。え?それ?と驚く僕を、後目に彼女はイタズラっぽく笑った。

「パパの家でしか読めないでしょ?こういうの」

彼女はそういって、下着姿の女性がシーツを乱して妖艶に肢体をくねらせているイラストが描かれた表紙絵を、しげしげと興味深そうに眺めた。

「そういうの、興味あるの?」

と聞くと、

「この中で一番面白そうだったから」

と応えた。確かに、僕は読んだ本でここに収まりきらないものは、実家の方に放り込んでいた。元々僕が住んでいた部屋に、積んである。その中で、ある程度見栄を張った選択で、本を残してある。文豪の全集とか、いかにも文学者、といった風情の本だ。

彼女が選んだ本は、たまたま暇つぶしに古本屋で買った、ごく最近読み終わった本で、実家行き直前のものだった。それを運悪く見つかったらしい。

彼女はその本を携えて、そそくさとリビングの方へ言った。床にゴロッ、とうつぶせに寝そべって、手にした本をぱらぱらとめくり始めた。

ゆっくりと、仕事部屋のドアが閉まる。音もせずに閉じると、空調の音が聞こえた。ここだけ窓がないので、終日エアコンがなければ環境は最悪だ。だからなるべく、特に読書の時間などはリビングにいたのだが。リビングは窓を開けると、風が抜ける。

しかし、どうしても彼女の存在を感じると気が散って集中できない。というより、彼女をかまいたくて仕方が無くなるのだ。だから僕は、早々と仕事部屋に引きこもったのだ。

もしも、と僕はぼんやりとした想像をしてみる。彼女がこの家に住むようなことになったら、こういう日がずっと続くのだろうか。僕の仕事は、部屋ですることが主だ。その隣に、いつも触れる所に、彼女の存在がある。

僕は集中力が長続きしない方で、そして飽き性で、さらにめんどくさがりやなので重い腰がなかなか上がらない。それを克服するには、規則正しい生活をして、半ば強制的に外部と遮断された空間を作りそこに閉じこもる。そうすることで、僕は自分の意識を仕事に向けることが出来る。

ぱたりと閉まった扉の向こうで、彼女の存在は、さっきからずっと感じていた。防音しているから、彼女が扉を開けない限り、何をしているか容易にはわからない。だから、自分の時間に集中することが出来たのだが、それでもなかなかスタートは重かった。

そういうことにも慣れるのだろうか?そうでなければ、僕は仕事が続けられないだろう。住居を分けると言うことも可能だろうが、それでも同じコトのような気がする。僕は自分が歩んでいく時間の中に、彼女、という存在に慣れることが出来るんだろうか?

慣れること自体、良いことか悪いことかわからない。使い分けが出来ることが一番のような気がするが、そんな器用さが僕にあるのだろうか?

しかし、考えても仕方のないことだ。そういう時が来て、不都合なら修正する。その繰り返しなのだ。とことん話し合える関係さえ作っておけば、一緒にいることはそれほど難しくないと思う。

僕はそういうことを考えている内に、目だけで文字を追っていた。全くストーリーが頭に入ってこなかった。僕はそのほぼ一ページ分を、また最初から読み直した。

 

の日一日、僕はこれから何をするよ、とまず彼女に宣言して、必要なら説明して、君はどうする?と聞いて、互いに確認し合って、何かをする、ということを繰り返した。結局、その前置き、以外は僕は終始一日、いつもの生活をこなすことが出来たのだけど、彼女は一人で何かをする、ということにずいぶんと疲れたようだ。

それは目に見えて表情に表れていて、彼女の見せる退屈な表情というのは、あからさまだが、心を許している証拠で、不快ではなかった。無防備な態度ほど、こちらを安心させるものはないものだ。

彼女にしてみれば少し遅い昼食を摂ってから、彼女は近所を歩いてくる、と言った。大丈夫?と問うと、やばそうだったらすぐにパパを呼ぶ、とこともなげに言った。歩いていく範囲だから、と言いながら、少し離れた大型スーパーまで行きたい、と言った。

結局独りに慣れたスケジュールに合わせることは、彼女の自由を認めないと成り立たないのだ、と僕は思った。だから、不安はあったが、彼女に部屋のカギを渡した。一人歩きに昂揚した彼女は、昨日買いそろえた服を身につけ、鏡の前でポーズを取る。その姿は、まったく地味で、パッと見ただけでは、地元の若い主婦、といった立ち姿だった。確かに、田舎町には溶け込んでいると思える。そうして、1時間もすると、彼女は出かけていった。

僕はケータイとクルマのカギを携えて仕事場に入った。地元の情報誌に載せるコラムを書こう、と僕はパソコンに火を入れてまず、ルーティーンのメールチェックや、いくつかのニュースサイトを巡る作業をこなした。だいたいはそれで、心の準備というか、頭の整理が突くのだが、今日はなかなかそうはいかない。

つい、パソコンのモニターよりも、ケータイの方が気になる。彼女が何処を歩いているのか、なんとなく予想はするが、どうも気になって仕方が無かった。

それでも、なんとか仕事に取りかかる。集中力に欠けると、なかなか先には進まない。

彼女からは、時折メールが届いた。今どこにいる、という報告だ。その度に、僕はひととき安心をし、すぐに新たな不安に脅えた。あの店の角に良く柄の悪い中学生が溜まっている、とか、あの住宅街の道は最近痴漢被害で騒がれた、とか。

あらためて自分は基本的にネガティブな思考の持ち主なんだな、と思う。誰でもそうかもしれないが、彼女が楽しく街ブラを満喫している、という想像よりは、何かトラブルに巻き込まれていないか、そういうことばかりを考えるのだ。

心配性、と片づければそれまでだが、ある意味それは、彼女を信頼していないことに繋がるのではないか、などと思う。僕のいない所で、彼女が何をしようと、いつか僕のところに帰ってきてくれさえすれば、それでイイ、というのが僕の基本的な考えだったはずで、なのにこんなに、彼女の不在に足下の寒さを感じるとは。

僕は自分の不安を、杞憂とか、過剰反応とか、仕舞いには束縛、とか言う言葉に置き換えることで何とかやり過ごし、自分を押さえ込んだ。

しかし、彼女が帰ってきたのは、夕闇が深くなる時間になってからだった。

電車に乗る、というメールが来て、それっきりぷっつりだったから、僕は何度か返信を繰り返した。何とか短いコラムを書き上げ、いくつかの資料をプリントアウトして、それからもう彼女のことばかりが頭を巡って、仕事にならなかった。

意味もなく部屋をウロウロして、いつでも出かけることが出来るように、外出用の服まで準備した。それでも収まらず、夕食は外食にしよう、という理由を付けて、クルマで彼女を迎えに行こうとした時、やっと彼女から帰宅する由のメールが届いた。

僕は返信の文言に、自分の不安を滲ませまい、と努力した。自分狼狽を、彼女には悟られたくなかったのだ。そのせいか、彼女のメールは内容といい、タイミングといい、呑気なものだった。それに反比例するように、僕は焦っていったのだ。

やっと帰宅のメールが来て、僕は何とか落ち着いた。そして、やっと冷静に自分の狼狽ぶりを反芻して苦笑した。情けない男だな、と自嘲するが、しかし、それは自分の今の正直な姿なのだ、と思う。

全く、いくつになっても変わらない。

それにしても、年齢を重ねるごとに、些細なことで動揺するようになっていた。自分の中の不安にしてもそうだし、彼女の挙動に右往左往することもそうだが、その行為は代わりがないにしても、感情に抗う力が弱まっているような気がする。簡単に言えば、心を乱す感情に関して、耐性が無くなってきたような気がするのだ。

言い換えれば、僕は歳を取るごとに、ハプニングに脆くなっている。それは僕の意識としては、退行とすら感じられる。

たぶん、歳を取るごとに、拙いなりにも手練手管や、ある程度の状況に対する予想、というモノが身に付いて、同時に経験がそれに対する構えを身につけさせていた。ただ、それは形骸化し、スタイルというような便利な言葉に置き換えられている。

それが突拍子もない変容や、想いもしなかった所に伸びる枝葉の存在に、狼狽してしまうのだ。こうなるはず、という予想が裏切られることに、全く柔軟に対応できなくなってしまっていたのだ。

結局それは、ある所で変質のない常態、という中に安住することになる。僕の場合、独りの生活、というのがそれだ。そして社会が、それを許容する。

おそらくそれが、老いる、ということなのだろう。成熟した社会、というモノの姿なのだろう。

彼女のような、可能性を秘めた存在に出逢うと、特に思う。例えば、たった数時間で、彼女が今度香川に来る目的が、僕ではない他の誰かの部屋、ということになる可能性だってあるのだ。その可能性が、彼女の若さの象徴なのだ。

僕はそのギャップに脅えているのではない。自分に戦慄するだけだ。自由で、柔軟で、なんでもやれると信じている内に、老いて型に嵌ってしまっている自分を、情けなく思うのだ。

それだけで、彼女の若さは罪だ、などと思ってしまう。

僕は食卓テーブルの前に座って、ぼんやりと、部屋の中を見た。さっきまで彼女がいたはずの床は、いつもと同じ広さのはずなのに、ひどく味気なく感じる。僕なは何かを飛び越えて、彼女をその床にフィックスしたくなる。

でも、という感情が僕を包む。そういう資格が僕にはない、というネガティブな感情だ。言葉で確かめる、という陳腐な作業に半分手をかけている自分を、僕はがっかりした目で見つめていた。

この瞬間を繰り返して、僕は失敗し始めるのだ。

インターフォンが鳴る。彼女が帰ってきたのだ。その瞬間、僕は安心を手に入れる。安心は、僕を絶望の淵から、見事にすくってくれた。ただの勘違いでも、自分が自分らしいと信じる姿に、何とか踏みとどまる。

僕は、頬をひとつ叩いて、目を大きく見開く。そして優しく、インターフォンに向かって声をかけた。 

  

配したよ、とつい言ってしまってから、彼女は、でも楽しかったよ、と軽く受け流した。昨日の商店街まで行って来た、とこともなげに言う。

そして手にして戻ってきたものは、「かがわ」と大きく書かれた観光雑誌と、近くのスーパーで買った食材だった。

夕ご飯は彼女の時間に合わせて一緒に食べた。とりあえず彼女と離れて何かをする、ということをあきらめた。先ほどの不安からすれば、僕はそれから逃れるのに、相当な時間と慣れが必要なようだ。

彼女が作るシチューは、なかなか味が濃くて美味しかった。食事の間中、珍しく彼女が一方的に喋っていた。電車の待ち合わせの駅から、ここに帰ってくるまで、ずっとガイドブックを広げていたらしく、香川の観光地のいくつか、について僕に尋ねた。もちろん、明日行ってみたい、という算段を確認するためだ。そして、その観光地に美味しいものはあるか?それが確認の主目的だった。

そのいくつかを考慮に入れながら、僕は明日の観光ルートを組み立てた。ただ、美味しいものはうどんしか見あたらないね、というと少しがっかりした顔をした。そのために、僕はもう一つルートを増やして、やっと彼女の了解を得た。

それから、僕が食器を洗っていると、また彼女はゴロン、と床に横になって、ガイドブックと、官能小説を交互に読み始めた。どちらも明らかに退屈しのぎに見える。読みたくて読んでいる感じではない。

「仕事部屋、また見てもイイ?」

彼女はそういって、僕の返事も聞かずに、ドアを開けて入っていった。

一通り食器を片づけてから、僕は彼女の後を追った。彼女は、仕事部屋の向こうの、楽器が置いてある小部屋の扉を開け、壁をまさぐっていた。明かりを点けるスイッチを探していたのだ。

僕が明かりを点けると、彼女は中に入っていった。といっても人が一人立つスペースぐらいしか空いた場所はない。彼女はぐるりと回って天井を見回すと、自然とマイクスタンドの前に立った。

「本格的ぃ」

金魚すくい、などと呼ばれる風防の仕込まれたスタンドに、取り付けられたコンデンサーマイクに口を近づけて、冗談っぽく言う。

「安物で揃えたんだよ」

実際そうだった。プロが使うような高価な機材や、レアな楽器などどこにもなかった。アマチュアが買える範囲で、必要な時に必要なものを買い足したに過ぎない。

「音出るの?」

僕はその部屋を出て、すぐ傍らのパソコンの前に座る。いくつかの機材のスイッチをオンにする。また戻って彼女に、壁に掛かっていたヘッドフォンを渡す。

「歌う?キーボードとかギターも使えるよ」

というと、彼女はすぐ傍らにある、キーボードの鍵盤を叩いた。ヘッドフォンから音がする。

僕は部屋を出ると、小部屋のドアをしっかりと閉め、パソコンの前に座り直した。傍らのミキサーを操作すると、中で彼女が弾くピアノの音が流れてきた。僕はパソコンのそばにある小さなマイクに口を向け、小さなボタンを押して話す。

「小さい頃、ピアノ習ってたんだっけ?」

窓の向こうから彼女が僕を覗くのが見えた。

「今でも続けているよ、最近仕事の合間にちょっとね。パパは弾けるの?」

「イヤ、それは主に、ウチで歌っているヤツが弾き語りするんだよ。曲作りのやりとりとか」

「ああ、パパの作った曲聞いたこと無いね、今聞ける?」

イイよ、といって僕はパソコンにまとめてあるオリジナル曲のフォルダをクリックした。そのまま直接、スピーカーと彼女のヘッドフォンに流れるようになっている。

「あ、これってユウさん?」

「違うよ」

「また新たな謎の女の出現」

僕はマイク越しに笑った。

「そいつは今子育てで走り回ってるよ」

安心したような、そうでもないような複雑な表情で、彼女はヘッドフォンの耳当てに手を添えた。

リスニングだけならこっちに来なよ、というと、彼女はヘッドフォンを置き、戻ってきた。

「何曲ぐらいあるの」

「昔からずっと作り続けてきたから、はっきりとはわからないなぁ。メンバーが揃っていた時には、毎月二曲ぐらい平気で作ってたからな」

曲を聴きながら、僕は傍らのギターを手に取った。黒のレスポール、国産の安物だ。いくつかのフレーズをなぞってみせる。彼女は僕の斜め後ろのスツールに腰掛けて、身体を小さく揺らしていた。

「パパが全部作ったの?」

「全部じゃない。昔のメンバーのもあるし、さっき言った子持ちのボーカルのヤツもある」

これは、と彼女は、スピーカーを指さす。

「子持ちボーカルの作詞・作曲だ」

パソコンのプレイヤーには「春風のメッセージ」とタイトルがスクロールしていた。

「その人とは長いの?」

「そうだな、あいつの旦那より長いつきあいだし、ここ十年はずっと一緒にやっている。今では唯一の、オレの音楽の相棒だな」

へぇ、と彼女は言ったきり、スツールを回して後ろを向く。

「子育てに入ってから実質音楽の方は休業状態で。まぁ、他に誰かいれば、すぐに再開するんだけど」

「待つとか、そういうコトって無いの」

「待たなくても戻ってくるからそういうのは関係ないし、固定メンバーとか、そういうことに拘らないんだ、ウチは。というか、オレがそういうのに縛られるのがイヤなんだよ。好きな音楽ぐらい、自由にやりたいよ」

といって僕はハッとした。自分の心の構成や、振る舞いの教科書を、音楽から得ていることは自覚しているが、それが停まった時に老いを感じたのではないのだろうか?と。ヤツが自然と育児休暇に入ってからどれくらい立ったのだろうか、僕は考えてみた。

そして、今の僕の傍らには、彼女がいる。この二つの間を、音楽が取り持つことは出来ないのだろうか?

そういえば、と少しわざとらしく、僕はプレイヤーを停め、ソフトを立ち上げた。いつも作曲やレコーディングに使っているソフトだった。このパソコンに入っているソフトで一番高価だ。今膝に置かれているレス・ポールよりも高い。

「曲作りの途中で停まっている曲があるんだけど」

僕はそのデータを立ち上げ、プレイバックする。シンセのシーケンス・フレーズが流れ始める。続けてピアノリフが重なり、やがて被さるようにストリングスが鳴る。

倍音のない丸い音で、メロディーが鳴り始める。彼女はパソコンのモニターを見つめている。

僕はこの曲の資料を、棚から探る。やがて、メロディー譜のコピーが出てきた。

それを彼女に手渡すと、彼女は視線をとした。しかしすぐに、顔を上げて音に集中する。

やがて、曲が終わり、カウントの無機質なビープ音が残り、やがて停まった。

「へえぇ」

と、彼女は感心したような、意外だな、というような表情で僕を見た。

「幻想的な曲だね」

僕は頷く。だが、あえてそこに、僕の意図というようなキーワードは差し挟まなかった。

「このメロディーに歌詞を着けて、ボーカルを入れて、ギターソロを録ったら完成するんだけどね」

もう一度、と彼女は言った。僕はキーを押してリプレイする。

「単純なメロディーだろ?俺の特徴だよ」

「でも隙間が無くて歌いにくそうだよ」

「それを何とかするのが、歌い手さんの実力だよ」

僕と彼女は見つめ合った。僕は一日、ごろごろしている彼女を思い浮かべた。同時に、彼女のいない夕方のリビングも。僕らはこの曲を完成させることで、お互いの時間と存在を感じ合い、何かを得ることが出来るんじゃないだろうか。

いつも曲作りは、そうやってどこかの部分を任せきりにすることで、ブラックボックスをあえて造り、そこから現れて角付き合わせる時の化学反応が一番の醍醐味だ。もちろん多くは、互いの感性がぶつかって意見し合うことになるのだが、それもまた創作することの多様性を導き出す。

それを繰り返すウチに、得られるものは信頼だ。僕は多くの信頼を、音楽を通して受けてきた。いくつかの信頼も与えることが出来たかもしれない。

そしてそれは今、僕と彼女の間に必要な時間かもしれない。そんな風に思う。

「私に出来るかな?」

出来るよ、と僕は言った。もちろん、彼女はエンターテイメントを生業にしている人であり、歌うことにしても、それを表現することも、充分に知っている。その意味の、信頼はある。

「大丈夫だよ。二日もあるし、プロデューサーが着きっきりで指導するんだから」

そういうと、彼女は声を上げて笑った。

「イイね、二人で曲を作るって、おもしろいかもしれない」

そういって、彼女は承諾した。楽譜を見ながら、もう一度、聴かせて、という。

何度か繰り返した後、彼女は思いついた何かを口にした。

「明日からは、ロケハンだね」

美味しいもの以外に、旅の目的が見つかって、彼女の目は輝いていた。

  

  

  

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