今日二度目のキス。それはずいぶん時間をかけた、暖かなキスだった。

ようやく唇を話すと、フロントガラスにチラチラと、白いものが張り付いては消え、張り付いては消え、しているのに気がついた。思わずそれに目を奪われ、慌てて僕は無言で指さす。すると、明日菜もそれを見つけた。

「雪だ」

僕らは同時にそう言って、顔を見合わせて笑った。

しばらく見ていると、それはひっきりなしに落ちてきた。明日菜がフロントガラスを、今度はちゃんと布で拭うと、雪が斜めにひっきりなしに落ちている様子が広がった。白い大きな綿のような雪が、止めどなく空から降ってきては、アスファルトの上で消えてゆく。うっすらとアスファルトが濡れて、色を濃くしていて、その上には半分溶けてみぞれに変わった雪が重なっていた。

正面に見える資料館の庭の木々には、もう雪がいくらか積もっていた。芝生も白に変わっていた。今年の冬は十一月からひどく寒くて、冷たい強い風が連日吹いたけれど、雪が降るのを見たのは初めてだった。高松の方では何度か降ったらしいけれど、西の市街地に雪が降るのは、きっとこの冬初めてに違いない。

「ホワイトクリスマス」

明日菜がそう呟いて、うっとりと綿のような雪の軌跡に魅取れていた。僕はその横顔を見つめていた。ほんのり赤く染まったぷっくりとした頬の曲線から覗く唇。僕はもう一度、その唇に触れたい、と思っていたけれど、雪に魅取れる明日菜の邪魔は、どうしても出来なかった。

この世の中には、絶対的に美しい曲線がある、と誰かが言っていたのを思い出した。そのほとんどを女性が持っていて、女性以外の誰にも持てない、とも。きっと明日菜は、そのいくつかを必ず持っているはずだ、と僕はその頬を見ながら思った。きっとその曲線のほとんどは、柔らかさも兼ね備えているはずだ。

「外へ出てみない?」

明日菜が興奮してそう言う。

「寒いよ」

いいよ、と言いながらもう、明日菜は車のドアを開けていた。雪は勢いを増していて、その中に明日菜は飛び出す。早く、と僕を急かしてから、ドアを閉めるとフロントの方へ駆けた。

うっすらとしたフロントガラスの向こうで、明日菜が両手を拡げて、空を仰ぐ姿が見えた。お構いなしに、雪はひっきりなしに降り落ちてくる。勢いは更に激しくなっていく。

ようやく僕も外に出た。アスファルトは濡れた上のみぞれで、ずいぶんとベチャベチャしていた。歩くと水たまりとは違って、ジュクジュクとした音がする。小さい頃長靴を履いて雨の中で遊ぶと、そのうちに水が溜まってこんな音がしたな、と思い出す。

 

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