僕は夏の終わり、と聞いて、花火大会のことを思い出した。僕は明日菜と一緒に花火大会を見るつもりだったのが、たまたま明日菜はセンセイとその妹という人と見に来ていて、結局そっちと行動を共にしてしまった。毎年、地元の花火大会は、祖父を中心に、親戚連中が集まって宴会を開くのだけど、いつも居心地が悪かった。高校最後の花火は、明日菜との想い出にしたかったのだけど、それも上手く行かなかった。

そして、そのセンセイの妹、という人が、僕らの前に現れた時に、セーラー服を着ていた。僕もその人にはなんだかあったことがあったけれど、確かセンセイと二つぐらいしか違わなくて、もう四十歳に手が届くバツイチだったはずだと記憶している。

あまりにも驚いたので、その後しばらくはその話題で持ちきりだった。似合っている、というほどではなかったけれど、不思議と違和感が無くて、その時僕の両親も一緒だったんだけど、一様に驚いていたんだった。

「とにかく、私が行ったらセンセイの家は、めずらしく賑やかで、ああクリスマスなんだな、って思ったんだ。なんにも飾りとかしていないんだけど、みんなでリビングに集まって、ワイワイ言っててね、私の家は、ほら、お兄ちゃんもお父さんも外に出たまんまだから、なんだか羨ましいな、って」

明日菜の父親は、宇和島に単身赴任していて、お兄さんは大学を中退して漆職人の修行に住み込みで働いている。家にいるのはお母さんと明日菜だけで、お母さんも時々パートに出て留守にする。だから、僕らが会うのは明日菜の部屋が多いのだけど、ひっそりとした家に違和感がないのは、きっとウチも似たようなものだからだろうと思う。叔父さんの家にいる時も、叔母さんも仕事に出ていたし、今いる家でも、祖父はしょっちゅう外出している。祖母と二人でいても、よっぽどのことがない限り、会話はない。

「それにみんな、音楽の話をしているのね。世間話をしているようで、気がつくとバンドの話が出てきて、親父ギャグを挟んで、またロックの話になったりとか。それって、セッションの後の反省会って、喫茶店でワイワイやるだけなんだけど、その時と一緒で、やっぱりみんな音楽が好きなんだな、っていうか、当たり前に音楽やっているんだ、って気がして、見ていて本当に楽しそうだったんだなぁ」

そう言った明日菜は、何処を見るともなく、虚空に向かってうっとりとした目を向けた。今自分が口にした光景を、視線の先に浮かべて反芻しているような、そんな表情をしていた。一瞬、その中に僕の姿は微塵も重ならない、と思う。こんなに近くにいるのに、僕は蚊帳の外だ。

 

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