僕らは高校一年の春につきあい始めて、その年の夏の終わりに、初めてセックスをした。善通寺のハズレにあるため池のほとりのラブホテルだった。近くを通る国道からうまい具合に隠れていて、その反対側の池の土手からも入ることが出来た。近くの高架をくぐるトンネルまで自転車で二人乗りしていって、そこから土手を歩いてそこに入った。

その一週間前に、明日菜の部屋のベッドで抱き合った時に、初めてじゃないよ、と明日菜は言った。その時の僕の高まりは、その一言で断ち切られたのだけど、次の日学校の帰りに、気にしないよ、と僕が言うと、だったらちゃんとしたところがいい、とホテルに行くことが決まった。

僕らがホテルに行ったのはその時だけだったけれど、二人きりになってそういう雰囲気になるのは、ごく普通のことになっていたし、キスをするのはもう、当たり前の行為になっていた。ただ、時々明日菜はシーツが汚れるのを嫌って、僕を遠ざけることがあった。それに加えて、バンドが忙しくなると、簡単に僕は蚊帳の外に置かれて、優先順位を下げられた。だから、僕は満足したことはない。大事なチャンスを、逃さないように、とそんな感覚さえ持っていた。

「このままホテルに行けるよ」

明日菜はハンドルを握りなおして、そう戯けて云った。きっと、性欲は僕の方が強いのだろうけれど、口に出して卑猥なことを云うのは、明日菜の方が多かった。今年の夏休みを過ぎると、周りがそういうオジサンばかりだから、と特にひどくなった。

「イヤだよ、明日菜の運転じゃ、さすがに怖い。それに、制服だとやっぱりマズいんじゃないの?」

「せっかくのクリスマスなのに?」

じゃあこのまま、明日菜の部屋に行こうか、というセリフが、喉まで出かかって、僕はかろうじて押し込めた。明日菜の家は、ここから車で行けば五分とかからない場所にある。それぐらいなら、多少のスリルは我慢できる気がしたけれど、僕は今は受験だから、という自縛を自分に課していて、それを解くのを恐れていた。

一度自分に甘えると、そのままずるずると、なし崩しに欲望って奴を優先するのが、怖かったのだ。自分を律することが出来るほど、僕は自分に強固な意志があるとは思っていないし、そう信じたこともない。だから余計に、目の前の甘言には、自分自身に疑心暗鬼になってしまう。

「受験生だから」

明日菜とは違うよ、と口にしかけて、言い換えた。明日菜だって、ついこの間までは一緒だったのだ。簡単に進路を決めたようで、明日菜には明確なビジョンがあってしたことで、きっとそれは間違った方法ではないはずだ。将来、という曖昧な未来の原因として、その結論があったとしても、後悔に直結しない自信が、きっと明日菜にはある。その意志がもたらした余裕に、僕は非難を加える資格はないのだ。

意外ではなかったけれど、明日菜はずいぶんと不満そうな顔をした。もしかすると、このままホテルに行くプランまで考えて、今日は車に乗ってきたのかもしれない、なんてことまで勘ぐってしまう。そう思わせる表情をしていた。

 

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