「見る?」

「こんなところで出していいの?汚れない?」

大丈夫だと思う、といって僕はバッグをアスファルトの上に下ろして、額を手に取り、丁寧に引っ張り上げた。とりのこ用紙がサラサラいう音がして、少しずつ、絵が姿を現す。全部出てきたところで、僕は長辺の真ん中を持って、くるりと回転させて、下側を自分のスニーカーの上に乗せた。僕自身がイーゼルとなって、明日菜の前に披露する。

明日菜は一歩下がって、上から下まで、時間を掛けて眺めた。小さな声で、文化祭の時だね、と呟いて、後はまた無言で隅々までを見続けた。

「見透かされてるね」

何?とその声に僕が顔を出すと、なんでもない、と明日菜はうっすらとした笑顔を残したまま、俯いた。そして、また顔を上げると、今度は輝くような笑顔になっていた。もう一度、ありがとう、としみじみと言う。

「トモの絵、欲しかったんだ。受験が終わったら、リクエストしようと思ってたの。高校時代の一番の想い出だよ」

バンドじゃないの?と僕が問い返すと、バンドはまだ続くから、と明日菜は応えた。

それから、明日菜は車の後ろのドアを開けて、後部座席に絵を乗せるスペースを用意した。シートの上にはチラシやら缶ジュースの空き缶の入ったコンビニの袋とか、キャラクターの顔のクッションとか、マフラーやニット帽やら、とにかく、モノが散乱していた。それを一つ一つ手にとっては、シートの後ろのラゲッジスペースに放り込む。

片づけをしながら、これは普段ママが乗っている車だから、と言い訳のように言った。最初はお兄さんが乗っていたらしいが、それを母親に譲って今に至るらしい。だから年式が古い上に、ミッション車だから、と愚痴った。明日菜はオートマ限定の免許ではなく、ちゃんと普通の免許を取ったらしい。

何とかスペースを作っても、四十号のキャンバスをシートに乗せると、リアウインドウが隠されてしまった。シートを寝かせてようやく、何とか収まったが、このまま明日菜の運転で家まで帰るのは心許ない気がした。まだ、僕が自転車で持っていった方が安全な気さえした。

僕がそういうふうに言うと、明日菜は大丈夫だよ、と強がって見せたが、クッションを挟んだり、マフラーを下げてみたりと、振動対策を念入りにした。

これで本当に大丈夫だよ、気を付けて帰るから、と最後に自分に言い聞かせるように言って、後ろのドアを閉めた。

それから車に乗り込もうと助手席のドアを開けたら、しっかりとギターが立てかけてあった。助手席のシートに幼稚園の子供ぐらいの大きさはあるぬいぐるみを乗せ、そこにギターのソフトケースを抱えさせていた。ご丁寧に、ぬいぐるみにはケースと一緒にシートベルトまで掛けられていた。

「ごめんだけど、ギター、持ってくれる?」

運転席に座った明日菜は、申し訳なさそうに言った。僕は仕方なく、背負ったデイパックを足下に置くと、シートベルトから解放したギターを足で挟むようにして抱えた。ぬいぐるみは後ろのシートのキャリーバッグの上に寝かせた。明日菜は何度も後ろを振り返って、ぬいぐるみが悪さをしないかどうか、確認した。

 

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