駐輪場を出ると、ちょうど明日菜がバックするところだった。駐車場には十台ぐらいが対面にまばらに停まっていて、その中で間隔の大きく開いたところに明日菜はテールを突っ込もうとしていた。白線に対して斜めに車を停めると、タイヤをキシキシ鳴らして明日菜はハンドルを切る。まるで明日菜の鼻息が聞こえるような、エンジン音を響かせて、車は後退を始めるが、見ていて危なっかしいぐらい急発進だった。

案の定、テールはグラウンドの壁を押しつけるようにして停まった。ギギギというイヤな音がして、明日菜の車は不用意に止まる。

僕は歩いて明日菜の車のところまで向かう。だけど、まだエンジンはアイドリングのままで、明日菜は運転席であたふたと後ろを見たり、また左手を覗いたりとあくせくしていた。僕は不測の事態を予感して、少し離れたところで立ち止まった。

やがて、少しだけ車を前に進めると、またギーッ、というワイヤをひっかくような音がした。少しして、運転席のドアを開けて、明日菜が姿を現した。

明日菜は制服だった。冬のブレザーで、標準よりスカートの腰のところをクルクルとたくし上げて、膝が見えるぐらいまでのミニにしている。そういう恰好をしている時は、だいたいギターを弾く時で、ほとんど今なら詫間にギターを習いに行っている。制服は、明日菜にとってギターを弾く時のユニフォームみたいなモノで、休みの日でもそれは変わらなかった。

いつも、というか、普通に学校に来ている時と違うのは、いつもならこの季節に防寒着は必需品で、スカートの下のストッキングとか、首にマフラー、ダッフルコートが標準装備なのに、それがなかったことだ。だから余計に、車から制服姿がそのまま姿を現して、僕はなんだか奇妙な感じがした。

明日菜は、緊張をどこかに残して、僕に笑いかけた。どことなく、引きつったように見えて、それはそれで可笑しかったのだけど、それよりは車のことの方が気になった。

「免許取ったの?」

僕はまず、そのことを聞いた。

「そうだよ、十月に推薦が決まってすぐに教習所行って、免許取ったのは十一月の末」

「受験はどうしたの?」

「ああ、私のところは面接と、論文だけの推薦だったから」

それにしても、車の免許を取ったことが学校にばれたら、推薦そのものが怪しくなる危険もあるんじゃないか?と僕は思ったけれど、今目の前で実際に車に乗っている明日菜を見ると、そういうことなど簡単に吹っ飛んでしまいそうな気もした。

明日菜は一度運転席の中に顔を突っ込んで、何かゴソゴソやって、また顔を出した時に、手の平に真新しい免許証を持っていた。それを誇らしげに、目の前に掲げてみせる。僕はやっと遠巻きに覗いていた場所から歩き出して、明日菜の前に前に立った。

運転席のドアが開け放たれていて、僕と明日菜はそのドアを挟んで向かい合った。僕の顔に押しつけるように持ち上げた免許証を、僕は指でつまんで覗き込む。確かに、明日菜の顔写真が貼られた本物だった。

 

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