昨日も、年末のボーナスのことを祖父と相談するために叔父さんが来ていて、その運転手、という名目でウチに現れた。僕が一応参考書を開いて眺めているところへ、忙しないノックの音がして、僕が開けると、ミチル姉さんが立っていた。

勝ち気な性格の割に、ショートカットに柔和な丸顔で、パッと見はおとなしい印象を受ける。そうやって微笑んでいると、どこか品の良ささえ感じさせるのに、行動はけっこう粗雑でだらしがない。きっとそれは僕の前だからなのだろうけれど、それにしても、遠慮の欠片もない。

ミチル姉さんは僕の部屋にズカズカ入ってくると、テレビを勝手に点けて、そのままゴロンとベッドに寝転がった。僕が、受験勉強中なんだけど、というと、ああそう、とだけ云って、テレビをちらりと見て、スマホを取り出して何かサラサラやり出した。

テレビかケータイか、どっちかにしてよ、と僕がいっても、うんうんと生返事だけで、何も動こうとはしなかった。そればかりか、ねえトモ、何か食べるものない?と僕に訊く。無視していても、さすがに参考書には目が行かない。テレビでは、バラエティー番組の二時間スペシャルをやっていた。

ミチル姉さんは何度も、ハラヘッタ、と繰り返して、またプイッと立ち上がって下に降りていった。しばらくおとなしいな、と思ってテレビを消して勉強を再開しようとすると、またドアが鳴る。今度はどうも、つま先でドアを蹴っている雰囲気だ。

開けると、姉さんの手には、オードブルの大きな皿に、めいっぱいの大きさに丸く焼かれたホットケーキが乗っていた。焼かれたまま、何も添えられていない。その皿と、紙パックの牛乳を手にしたまま、また部屋に中にズカズカと入っていって、ベッドに腰掛ける。テレビ消すなよ、と一言愚痴を言ってから、姉さんはホットケーキに取りかかった。

上目遣いで、点け直したテレビを見ながら、姉さんはゲラゲラと笑い声を発て、その合間にホットケーキにフォークをザクザク突き刺して、口に運ぶ。僕の方など、全く気にもしていない。

しばらくして、半分ほど平らげたところで、やっと僕を見て、もうお腹いっぱい、トモ食べて、と皿をテーブルに置くと、またゴロンとベッドに寝転がった。

結局、間もなくして階下から叔父さんが姉さんを呼ぶ声がして、じゃあな、と言って出ていこうとした。部屋を出る間際、僕を振り返って、こう云った。

「私、正月三が日まではクリスマス期間だから、プレゼント楽しみに待っているよ」

それは冗談でもなく、ほとんど真顔でそう云うのだった。つまりそれは、僕に対しての命令だった。僕の返事も待たずに、ミチル姉さんは風のように去っていった。

その間にピアスを落とした、ということだろう。あるいは、何らかの形でピアスを僕から手渡すようにし向ける策略かもしれなかった。いずれにしろ、待ち望んでいたモノとはかけ離れていて、僕はうんざりする。僕が明日菜からの連絡を待ち望んでいるのを、見透かされているような気さえして、僕は滅入った。

 

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