また風の出てきた空の底の駐輪場は、一人でぽつんと座って居られる場所じゃない気がする。それでも、そこにいないわけにはいかないのだけど、呼び出した張本人から、まだなんの連絡もない。

ネズミ色の空は、ずいぶん低くたれ込めてきて、今にも雨粒を落としそうだ。周囲にあまり背の高い建物はないのに、閉じこめられたような圧迫感を感じるのは、多分にこの薄暗い雲のせいに違いない。

僕は手袋をしたまま、ズボンのポケットに手を突っ込んで、中に転がっているケータイを弄んでいた。メールが来ればバイブで知らせる設定にはなっていることが、今は全く信用できなくなっていて、何度も何度も取り出しては確認して、を繰り返しても、僕の細工にミスはなかった。

僕はこんなに明日菜に待たされたことは、初めてだった。お互いに、時間を良く守る方で、待ってもせいぜい五分が関の山だった。それにどっちかというと、待たせるのは僕の方で、明日菜は五分前、がレギュラーだった。

そんなふうだから、明日菜に何かあったんじゃないか、という気がしてならない。僕の胸は不安を通り過ぎて、ざわざわと嫌な予感という奴に責め立てられて、今にも口から何か出そうだった。

それにしても、周囲には明日菜どころか、人影さえまばらだった。お城は市民の憩いの場、といっても、寒空の下にわざわざ出かけてくるのは、走ることを日課にしているランナーぐらいだった。それも、駐輪場とは反対側の資料館の向こうの歩道が、コースになっているので、余計に人に出会う気配すらない。

閑散とした場所を、敢えて明日菜は選んだのだろうけれど、それほどに人目を避けるような仲でもないはずで、学校ではもうほとんどの同級生が僕らの間柄を知っていたし、先生だって口には出さないけれど、きっと知っているだろう。それに、今年の春、三年になったばかりの頃に、僕はちょっとした話題の渦中にいて、芋蔓式に明日菜との仲も校内に知れ渡ってしまったのだ。それは明日菜にとっては、とばっちりだったかもしれないけれど、いくらか僕ら二人の今後に影響を落とした。

明日菜はそのことに、あまりはっきりとしたことを云わなかったけれど、あまりいい気はしていない様子だった。

その時、待ち望んだケータイが振動する。僕は一瞬の早業で、ポケットからケータイを取り出して、七色に明滅する小さな画面を見る。だけど、そこに表示されていた名前は待ち望んだものではなかった。

がっかりしながらちゃんと確認すると、ミチル姉さんからだった。メールが届いていて、開いてみると、昨日ウチにピアスを落としたみたいなので、探しておいてくれ、と、それだけの内容だった。

ミチル姉さんというのは、家具工場を継いだ叔父さんの長女で、今は高松の大学に通っている。国立の教育学部の二回生だけど、僕はミチル姉さんがそこに通うことになったと訊いた時、思わず鼻で笑ってしまった。あのミチル姉さんが先生になる勉強?

理由は、僕はずいぶんと姉さんに虐められたからだ。いじめっ子が先生なんて、なかなか良くできた冗談に思えた。

 

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