「腹減ったな」

後部座席に座り直した妹は、そう言った。僕はルームミラーで視線を合わせる。

「ファミレスへ行きたいなぁ」

いつになく、妹はかわいらしい声を出したが、僕は即座に反応した。

「やめてくれよ、今日は花火帰りの客でごった返しているぜ」

それは只のこじつけで、観音寺の方まで出れば、この時間だともう空いているだろう。でも、僕は、ファミレスにあまりイイ想い出がない。ちょっとした災難を被ってから、一号と高松で唄った後に、ミーティングと称して寄り道していたのも、ファミレスではなく商店街のコーヒースタンドに変わった。半年経っても、あの時のあごの痛みを、僕は未だに覚えていた。

コンビニで弁当でも買うか、と僕が言うと、妹はべーんーとーうー?と間延びした調子で不満げな声を上げた。

「せっかくのお祭りの時ぐらい、もっとおいしいものを喰わせてくれよ」

妹はそんなふうに言って僕を責めた。

即座に僕は頭の中で、夜でも開いている食事のできる店を検索したけれど、近所では思いつかなかった。居酒屋や酒ありきの所は開いているのだろうけど、そういう喧噪で食事する気にはなれなかった。例えばモモちゃんとなら、あり得るのだろうけど、さすがに制服姿の妹と行くのは度胸がいる。

「ああ、昼間のうどんが余っているぜ」

思いだした妹が声を上げた。あの、絶句するほどの不味いうどん。明日菜ちゃんさえも困惑させた、あの妹が打ったうどん。

「熱い汁に入れたら、まだなんとかなる気がするんだよね」

不適な笑顔を浮かべて、妹は後ろから身を乗り出した。今度は僕一人を実験台にするつもりだ。

「またアレを喰わせるのか?さっき、おいしい物が喰いたいって云ったばかりじゃないか」

「今度は大丈夫だよ。まかせてよ」

それに関しての労力は厭わないらしい。

不味いうどんに、熱い汁か、と僕は呟くように言った。どう転がしても、あまり変わらない気がする。

 

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