盆を過ぎて、急速に秋の気配が忍び込んできて、蝉の声よりも虫の声の方がうるさくなってきた。昼間はまだ、風が凪ぐと冷房なしではいられないが、朝方などは窓を開け放していただけで、目を覚ますほど涼しくなっていた。

明らかに秋は、もうスタートを切っていたけれど、まだまだ、収まりは悪かった。夏の残照が、夜になっても其処此処に燻っている。その熱気は未だ、僕らに汗を誘う。

明日菜ちゃんを見送った時に開けたままの窓から、妹はほんの少し手を差し伸べた。手の平を表にしたり、裏返したりして、夜の空気に触れる。

僕も、少しだけ運転席のウインドウを下げてみる。暑気は思ったほどではなかったけれど、冷房を切るほどでもなかった。それは、妹が定めたルールでいえば、家に帰っても冷房を点けることが出来る温度には達していないはずだ。それでも妹は、もう、熱い汁のレシピに夢中で、うっすらと笑みを浮かべていた。

前を向いたまま、不味いうどんに、熱い汁、ともう一度、僕は呟く。

「夏が終わるな」

僕のつぶやきが聞こえたのかどうか、妹がふと、そう口にした。あまり感情のこもらない、平たい声だった。僕の同意を求めたわけではないのだろうけれど、僕は頷く。

名残の花火が終わって、夏が終わる。節電の夏も、終わる。

今年の夏の余韻は、どのくらい続くのだろうか?

 

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