そうですね、と明日菜ちゃんは言ったけれど、それほどには納得してはいないようだ。確かに、他人がとやかく言うような、コトではないのだろうし、結局決断は二人ですることだ。ただ、理由などなく一緒にいたい、というナチュラルな願望が、横道に逸れて曇って欲しくないな、と僕は思う。

生きることが困難な時代に、二人でいることの意味を、明日菜ちゃんの世代なら、きっと明らかにしてくれる気がした。

それを今度は、僕に教えてくれないか?

僕の結婚願望の話をしたけれど、そのオチは、結局結婚願望がなくなってしまった所に行き着くのだ。他人と一緒にいることの煩わしさの方が、今は先に立つ。なのに、人肌を恋しく思うことから逃れられないのが、全くの欺瞞に思えて仕方がない。

明日菜ちゃんは、また来週、と言って僕を見て手を振り、後部座席の妹へは、更に大きな仕草で手を振った。

僕は再び、シートに戻った。ギアを入れ、静かに車をスタートさせる。

ルームミラーには、窓から顔を出して、手を振り続ける妹の姿が映っていた。その先に、玄関の前で手を振り返す明日菜ちゃんが見える。

住宅街を出て左に曲がるまで、その姿はずっと見えていた。

 

戻る 次へ