「その頃好きな女の子がいて、戦争とか起こったら彼女と会えなくなるんだ、と思ったんだよね。せめて、地球最後の日は彼女と一緒にいたい、と思っても、私は両親と一緒、とか言われるとやっかいだし、せめて恋人同士ならどうにかなるかもしれないけれど、ただの片思いだからね」

漠然と、僕は中学生の頃に好きだった女の子の顔を思い浮かべた。名前は忘れてしまったけれど、ショートカットのふわっとした髪型と、猫のような瞳と口元だけは今でも忘れずに覚えている。

「その時に初めて、俺は結婚というものを意識したんだよ。結婚したら、好きな女の子と地球最後の日も、一緒にいられるだろ?それがオレの結婚願望の始まり」

なんだそれ、と後ろから声がした。続いて、まるで子供、と言い終わらない内に笑い声に変わる。

「そうなんだよ、子供だったんだよ。単純に、好きな女の子と一緒にいたい、という願望が、なぜか結婚と直結しちゃったんだよな。本当に単純で、頭悪かったな、と思うよ」

妹は笑いが何度も波のように来るのか、そのうちケタケタと転げ回りながら笑い出した。僕はあんまりだな、と思いながらも反論は出来ない。変わりに明日菜ちゃんの方を見るけれど、彼女も俯いて肩を震わせていた。

「カワイイですね」

そう明日菜ちゃんが言うと、後ろの妹は更に大きな声で笑った。

 

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