「トモくんの肩を持つワケじゃないけどサ」

僕はハンドルに腕を乗せて、その上にあごを乗せながらそういった。明日菜ちゃんが静かにこちらを向く。

「オレはなんとなく、トモ君が明日菜ちゃんと一緒にいたいという気持ちは、わかる気がするんだ。打算じゃなくて、本当はもっと幼稚な発想なんだと思うんだよ。本能的っていうか、もの凄くプリミティブな感情なんだと思うよ」

プリミティブ、と明日菜ちゃんは僕の言葉を繰り返した。

「僕が高校に入ったばかりの頃は、まだノストラダムスの大予言とか大流行で、それ自体はあまり信じてはいなかったけれど、まことしやかに語られていたのは事実だったんだ」

知ってる?と聞くと、テレビで見たことがある気がする、と曖昧に応えた。

「だからというワケじゃないんだろうけれど、そういうオカルト的な所を離れた、政治を扱うお堅い番組や、夜のニュースとかで評論家なんかが、このままでは日本がダメになる、とか、とんでもないことになるとか、まるで終末論を裏打ちするようなことばかり言って脅していたんだ。政治だけでなく、環境破壊とか、そういうこともひっくるめて、世界が滅亡する理由は事欠かなかった。だから、ノストラダムスなんか関係なく、きっと未来は暗澹たるものなんだろうな、と漠然と思っていたんだ。

本当言うと、震災で原発が事故った、って聞いても、たぶん現実にそれで避難したり、仕事を追われたりした人以外は、だいたいが、ほらね、っていう風に思ったと思うんだ。まぁ、予言とかは別にして、未来に希望はないんだな、って証明されたっていうか」

目の前の荷物の積み下ろしは終わったようだが、車はなかなか動かなかった。人の出入りが途絶えて、玄関先の女性も、奥へ引っ込んでしまった。

「そういう感覚がオレの中で始まったのが、中学か高校の頃だったと思うんだ。何がきっかけなのかは忘れたんだけど、正直、その時は世界が終わる、日本がダメになる、って聞いて本当に怖かったんだ。

で、それがどういう所に出たと思う?」

よく飲み込めない、といった表情で明日菜ちゃんは僕を見た。大きな瞳が、僕を見つめる。

 

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