僕は妹をもう一度見た。妹の周りには、バンドの連中が集まって、なにやら騒がしくなっている。そこだけ人の塊が出来ていて、その中心に、妹が居た。相変わらず、無感情の上に作り笑いを乗せている。

「アイツは間違っているのかもしれないな」

そういうワケじゃないけど、と明日菜ちゃんは否定しにかかったけれど、完全に果たせないもどかしさに口をつぐんだ。

「それはオレにもわからないよ。まぁ、でも、正しいことが曖昧なご時世だから、けっこう妹の方が正解のような気もする。ただ、俺が思うのは、妹は自分で考えて、自分でそう変わった、っていう事実だ。アイツは、どっちかというと正直なんだよ。アイツも散々気持ちの整理に苦心して、アイツなりの妥協点を見つけたんだと思うんだ。アイツ自身だって、自分の考えが正解かどうか、なんてわかってないかもしれないし、正しいとさえ思っていないかもしれないよ。でも、いずれにしろ、アイツは自分で選択した結論に、正直であることに、俺は反論できないんだよ」

「でも、結局は諦めたんでしょ?諦められたのかな?」

明日菜ちゃんも、妹の方を振り返った。

「七夕のため、って諦めたんじゃないかな。未練を残して足掻く方が七夕にとってはマイナスだっていう風にアイツは思ったんだと、俺は思ったよ。アイツが、急に七夕のものを全部燃やして、車まで買い換えて、その時に、アイツは七夕という存在を、どこか目に付かない所に永久に封印したんじゃないかな。そして、その時点で、何かを停めたんだと思う。それ以上でも、以下でもなく、そのままの自分を、フィックスしてまた自分もそれで永遠になる、というか」

それは、ある意味死んだことと同義かもしれない、と自分で言っていて気がついた。あるいは、心の中の何かを殺すことでしか、納得できないような感情。妹は、七夕と離ればなれになることで、何か感情とか大事なモノの一つの命を絶ってしまったのだろうか?それとも、そこから違う何かに生まれ変わったのだろうか。見た目は確かに後者だけど、僕にはその判断は付かなかった。変わったのではなく、フィックスした、その時点の事実を固定して、一切手を加えないようにした、そういう考え方が、一番馴染んだ。

そしてそれは、僕には出来ない芸当だ、となんとなく思っていた。僕はどうしても、嫌なことを保ち続ける、勇気がない。その胸を締め付ける思いを跳ねのけるために、きっと見せかけの正義にすがるだろう。僕自身の不快さを優先させるに違いない。それも正直には違いないけれど、おそらくそういう所で、人の本当の強さが計られるんだと思う。

その強さを、妹はきっと七夕を産むことで手に入れたんだと思う。それだけでも充分、僕は尊敬に値するし、きっと女の人はみな、その可能性を持っているんだろう。

「これからも先は長いのに・・・」

明日菜ちゃんは、そう呟いた。

 

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