ああそういえば、と僕は、なんとなく同意した。僕がはっきりと、妹が殺伐とした、粗野な感じに変わったことの理由を聞いたのは、本当は今日が初めてだった。でもそれは、意外な感じはしなかった。なんとなく、共感できるという類の、無意識の領域で、僕は納得していた。

でも、冷静に考えると、それは少し、突飛な考え方で、やはり王道は、何処までも妹が母親であるべきなのかもしれない。いつ七夕が帰ってきても好いように、というのが、普通なのかもしれない。それは、あのニュースキャスターが引用した、中原中也の詩と同じだと思う。

そういえば、中原中也の詩を教えたのが、トモ君で、今、同じ様な心持ちで、明日菜ちゃんが妹の考えに違和感を感じているのは、世代的なもの、年齢的なものなのかもしれないな、と思う。それならば、やっぱり僕が妹の判断に、違和感を感じないのも、ある程度の時間を経てきたせいなのだろうか?

尋常ではない思考かもしれないけれど、目の前で起こったことは、やはり尋常にはほど遠い。それが導き出したどうしようもない壁の前で、途方に暮れて諦める方策を練る妹の方に、ずっと共感できる気がした。

それが負ける、という結論を吐き出すのなら、きっと僕も妹も、受け入れざるを得ないんだろうな。

「理由はどうであれ、イジメる側のやり方って、だいたいは、人を人以下に貶めるというか、とにかく人格を破壊することによって、優越感を得るのだと思うんですよね。それに抗うのは、絶対にそうじゃない、自分はそんな人間じゃない、と思う意志で、きっとその意志が、最後の砦だと思うんです。

それに負ける時は、つまり、もう逃げ場がない、と諦める時って、自分を納得させるというか、自分は生きている意味がない、なんて思いこむというか、それが一番楽に自分の行為を正当化できるというか、自分が命を絶つことで、何かを喚起するっていうのか・・・」

「それはつまり、後始末を他人に委ねるっていうこと?」

「そう・・・かな?わからない。少なくとも、イジメられて当然、と思ってしまうことが、一番危険な気がするんです」

う〜ん、と僕らは一緒に、唸った。言いだした明日菜ちゃん本人さえ、自分の言葉に困惑している。それぐらい、妹の決断は、複雑だったのだろうか?

 

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