だから東京には行きますよ、とはっきりと言った。照れが倍増したのか、妹の方がそっぽを向いて、フンと笑った。僕は不思議なことに、やんわりと振られたような気分に囚われて、困惑した。そんなふうに、彼女を見たことは全くなかったはずなのに。

僕は明日菜ちゃんがこれからしばらく、トモくんの逢瀬に時間を費やすことに嫉妬しているのか、それとも、ギターを通じてトモ君よりはずっと長い時間見てきた明日菜ちゃんが、この手を離れるのが寂しいのか、いずれの感覚が大きいのか計りかねていた。

「東京行かないなら、アタシが嫁にもらってやっても好かったのにな」

冗談めかして妹は、そう言った。相変わらず、視線はあっちを向いている。

「妹さんの所なら、いつでも嫁ぎますよ、喜んで」

明日菜ちゃんも戯けてそう言って、妹の腕を掴んで強引に組んだ。身体を密着させて、歩き始める。駅の待合いの明かりが見えてきた。改札の前には、人が群れている。券売機の前には、珍しく人の列が出来ていて、出入り口を塞いでいた。

妹の所には無理だとしても、僕の家に嫁いでくる明日菜ちゃんを、なんとなく想像したけれど、余りの実感のなさに、少し辟易した。明日菜ちゃんよりも、嫁ぐ、ということが僕の中で全くリアルに像を結ばなかったのだ。ありきたりのドラマであるような、白無垢姿の彼女は現実感が全くなかった。

代わりに、明日菜ちゃんはどんなセックスをするのだろう、なんてコトを不覚にも考えた。

 

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