笑いながら、明日菜ちゃんは、なんでそう思うんですか、と訊いた。妹を見て、僕の方も見る。

「勘だよ、勘」

単純明快なようで、一番曖昧な答えだった。でも、意外に明日菜ちゃんには、説得力があるのかもしれない、と思った。それは、明日菜ちゃんは、妹のそういう感覚的な所に惹かれていて、ある種の信頼を、その皮膚感覚の中に置いている。憧れとは、そういうモノだ。元々根拠がない。

「仲がいい、というか、一緒にいて不釣り合いな二人じゃないとは思うけど、そういう仲って、急ぎ始めるとダメなんだよね。卒業の前って、進路とか、将来を急かされるだろ?そういう時にけっこう男はロマンチックに流されるもんなんだよね」

ロマンチックですか、と明日菜ちゃんは感心したように言うけれど、あまり納得はしてないようだ。きっと、明日菜ちゃんは自分で下心、という言葉を見つけたように、それに納得することで肝が据わっている。それとの対比で、妹はロマンチック、という言葉を選んだと思う。要は、バランスを見失う、ということだろう。

「時々、時間をおくんだよ。コツ、秘訣」

珍しく、妹はひどく照れたように笑った。他では知らないけれど、僕の前でそういう恋愛の話をしたのは、初めてのような気がした。上っ面の、誰が好きだの嫌いだの、彼氏が出来た、彼女に振られた、というような話は、冗談の中にくるまれて会話することはあっても、それ以上の深い話は、きっと初めてだ。それほどに、妹が経験豊富、という気もしなかったが、それは僕が知らないだけかもしれない。

僕は家族、というものからは距離を置いていたけれど、それは妹とも例外ではないのだ。

「私がちょっと、愚痴っちゃったから二人とも誤解したのかもしれないですけど、私は、妥協するっていうか、結局いろんな理由着けても、大まかに流れる方向は変わらないと思うんです。それに私も、トモとは離れたくはないんですよ」

明日菜ちゃんは照れもせず、まっすぐ前を向いて、しっかりとした口調でそういった。そして一呼吸置いてやっと、頬を紅くして言った。

「やっぱり、ちゃんとトモのことは好きなんです」

 

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