妹はふと立ち止まって、明日菜ちゃんのケータイをのぞき込む。

「さっきの彼氏にはまた会うのか?」

そう尋ねる。明日菜ちゃんは少しだけ指先に集中してから、送信のボタンを押して、顔を上げた。そして、いいえ、と首を振った。

「本当に、俺たちが明日菜ちゃんを横取りしたみたいになって、フォローしなくていいの?」

僕は心配になって、そう言ってみた。好いんですよ、また学校で会いますし、とこともなげに言った。ずいぶんとあっさりしている。そういうモノなのかな、と僕は思うけれど、逆に僕がトモくんの立場だったらどう思うだろう、と考えてみた。

そういえば、少し前に、セッションの帰り道の車の中で、トモは先生のこと疑っているみたいなんですよね、と言ったのを思い出した。その時も、ずいぶんとあっさりとそう告げた明日菜ちゃんとは正反対に、僕はひどく動揺してしまった。

「私が先生と、トモと会う前に付き合ってた、みたいな風に思っているんですよね」

そう言ってクスクスと笑った。そうだよね、あり得ないよね、と僕はそのクスクスに同意したけれど、その向こうに、疑心暗鬼のトモくんの視線を感じて、僕は嫌な気分になった。自分に自信があれば、きっとそういうことは些細なことなんだろう。笑い飛ばして終わるはずだろう。でも僕は、動揺した。なぜ動揺したのか、その理由が、僕自身ではなんとなくはわかっているけれど、ちゃんとはっきりとは掴みかねていた。

自分の手の届かない所で、僕のことをあれこれ詮索されるのは、どうも苦手だ。それを自分で否定したり、言い訳をしたり出来ることならばまだ好いけれど、手の届かない所で、感情の起伏を押しつけられるのは、どうしたってやりきれない。結局、トモくんのことは、明日菜ちゃんに任せるしかない。

 

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