花火、綺麗だね、としみじみと妹は言った。まるで今までの会話など何もなかったように、妹は空を見上げている。僕らは急に突き放されたような気がして、呆気にとられた。きっと、自然に目に入ったのだろう。ひときわ大きな大輪の花が咲くと、あちらこちらから拍手が湧く。

「母さんが言ってたんだけど」

妹は顔を上げたまま、そう言った。唐突にまた話が繋がって、慌てて僕は妹の方を向いた。妹は眩しそうに、夜空を見上げている。

「父さん譲り、って言ってた。ほら、父さんの兄妹って、女連中はみんな三味線やったり、日本舞踊をやったりとか、男だってマンドリンとか、アコーディオンやってたじゃない。兄ちゃんがギター始めたのは、その血を引いているんだ、って云っていたな」

僕が物心着いた頃には、親戚が集まるととにかく賑やかだった。もう楽器とかは倉庫の奥に、かつての記憶のように仕舞い込まれていたけれど、酒が入ると一層歌やら踊りやらと派手に騒いだ。だから、妹の結婚式の余興は、我も我もの大盛況で、友人代表すら歌を歌わせてもらえなかった。話を聞くと、それぞれ何か、楽器をやっていた経験があるらしい。

「でも、父さんは唯一何もやってなかったんだろ?」

妹は頷くけれど、視線は夜空に吸い付いたままだ。未だ、花火は上がり続けている。甲高い音を立てながら、クルクル回る金色の光を、瞳が追っている。

「一族の血、っていうの?隔世遺伝とか、そういうのなのか?知らないけど、とにかく母さんが言うには、ギターとかやり始めたのは、やっぱり血は争えない、的なものらしいかな、と」

だからね、とやっと妹は僕の方を向いた。

「やっぱり兄ちゃんは禿げる、と」

そう言って額を指さす。僕の前髪は、まだ額を綺麗に隠しているけれど、僕はなんとなくその遺伝的なものを感じていて、いつかはそうなるんだろうコトに怯えている。確かに、父さんの兄弟は誰もみな、あっけなく生え際を後退させている。例外なく、見事なものだ。一方の母親方の親族は、それほど兄妹がいないけれど、まだ黒々とした髪を称えている。

やっぱりそっちか、と僕はぶっきらぼうに吐き捨てた。心なしか、最近、髪質がやけに細くなった気がしないでもない。ますます、婚期が遠のくな、なんてコトをふと思う。右手の小指だけが、僕の将来に影を落としているわけではないのだ。

僕らはそのうち、醜く老いていく。

 

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