「ひどいこと言っちゃったかなぁ」

そうでもないよ、と僕は言ったけれど、その後が続かなかった。ニュースキャスターには彼女なりの家族に至るプロセスを思い描いていて、更にそれが自分のみならず、トモくんにとってもいいことだ、と確信していたに違いない。それに横槍を刺されたようなもので、ショックを受けないはずはなかった。でも、それが長く尾を引くとも思えなかった。家族を構築する、とはそういうものだとも思うからだ。たとえ血の繋がった親子でも、細かな妥協の連続は変わらない。

「ただね、トモは優しいから、ああいうふうに私が言っても、きっとフォローというか、それだけじゃないよ、って云ってくれるんじゃないか、とも思ってて。私も本当は、私ありきじゃなくて、もっとトモには自分を持って欲しい、と思う。そうじゃないと、将来任されるみたいで、重いもの」

明日菜ちゃんは正直だね、と妹が口を挟んだ。

「私のせいにされちゃ敵わない、って云ってやればいいんだよ」

さすがにそれは言えないだろう。実際、妹自身、それとは反対の方向へ進んだのだし。

「先生はどうでした?」

それを聞いて、また妹が鼻で笑う。

オレの場合は参考にならないよ、と応えると、妹も、そうそう全く、といってカラカラと笑った。花火の上がる笛のような音がそれに重なる。すでに道端には、立ち止まって空を見上げている人が目に付くようになった。会場はまだ離れているけれど、ここからでも大輪はよく見えた。工場の緑色の屋根の上に、輝く花は咲く。

 

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