トモくん一族の集う中華料理屋は、駅のすぐ裏手にあった。入り口には暖簾が片づけられ明かりが消えていたから、きっと今日は貸し切りなのだろう。上の方から、騒がしい音も聞こえる。

その前で僕ら三人は、一家と別れた。両親が入り口のガラス戸を引いて中に入り、僕と妹が歩き始めた、その真ん中で、トモくんと明日菜ちゃんは二人して、少しの間何か喋っていた。身体を寄せ合って、手を繋ぎ、顔を見合わせて言葉を交わしている。暗くて僕からはよくわからなかったけれど、二人の表情はこわばっているように見えた。

それからパタパタと靴音がして、明日菜ちゃんが僕らに追いついた。僕が振り返ると、トモくんはじっとこちらを見ていた。僕は軽く頭を下げて、胸の中でどうか僕らを恨まないでくれ、と願っていた。そんなつもりは全くないのに、なんとなく、彼の思惑とは違う結果を導き出してしまった。

「トモくんを僕らの方に誘えば好かったのに」

僕は苦し紛れにそう言ったけれど、明日菜ちゃんは首を振って応えた。

「お母さんに、あんな風に言って、トモまで連れだしたら、救われないでしょ?」

その言葉を聞いて、先を歩く妹がそうだね、といってカラカラ笑った。

と言っていると、北の空が一瞬明るくなって、僕らは反射的に顔を上げた。最初の花火が打ち上がる。遅れてどーん、という音が響く。続いて歓声が上がる。少し前を歩いていた浴衣のカップルが、声を上げて、足を速めた。すると、女の子の履いている下駄の、アスファルトを蹴る甲高い音が響いた。それをかき消すように、今度は続けざまに何発か上がった。

始まったな、と妹は呟いても、歩く速度を速めようとはしなかった。手にした金魚の入ったビニール袋を揺らさないように、バランスを取っている。

 

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