握手してもらっていいですか、と妹が言うと、ニュースキャスターは困惑したような顔を一瞬して、ええ、まぁ、と返事した。僕は、毎日見てましたよ、と付け加えた。それはどうも、と笑顔になったけれど、どう考えても営業スマイルだった。

これからどうするの?と握手してもらっている横で、明日菜ちゃんがトモくんに訊いた。早く行かないと、見る場所なくなっちゃうよ、と言うけれど、きっともう今の時点で場所取りは不可能だ。そもそも、どんな所で見るのか、見当がつかない。

昔夏の初めにやっていた頃は、丸亀ボートのスタンドがメイン会場で、駐車場も広いし、座って見られるしで、便利だったけれど、さっき休憩所でもらったパンフレットによれば、それとは全く違う場所になったらしい。

「俺たち、この裏のビルの屋上から見ることになっているんだよ」

トモくんが明日菜ちゃんに言う。なんでも、夕食を食べた中華料理店のビルの屋上で、家族のみならず親戚が寄り集まって見るらしい。トモ君一族、町間家では、それがここのところの夏の恒例になっているという。

「近所の人も来ているから、明日菜も一緒に見ればいいよ」

え?と明日菜ちゃんはあからさまに嫌な顔をする。その顔に、当然のようにトモくんは噛みつく。

「また、そういう顔をするだろ?最近、何かって言えば、そうやって嫌な顔ばかりするよな」

ごめん・・・だって、と明日菜ちゃんは拗ねた表情になるけれど、それが甘えているのか、やっぱり本心から嫌なのか、表情だけでは僕は読みとれなかった。案外、喧嘩するほど仲がいい、というのを地でいっているのかもしれない。

ただ、僕自身はそういう関係は、苦手なんだけど。苦手だから、余計にわからない。

「僕らは適当に見てくるから、明日菜ちゃんは一緒に見てくればいいよ」

僕が言うと、すかさず、ニュースキャスターが横から入ってくる。

「お二人も一緒にどうぞ、みんなでワイワイやっているだけですから」

それが苦手なんだよな、と思いつつ、僕は返事をしない。へらへら笑っているだけだ。ただ、そうはいっても、妹と二人で花火を見る、というのもなんだか、気乗りがしない。

僕は妹の方を見た。

「せっかくこんな格好してきたんだから、もうちょっと町を歩きたいな」

妹はそんなふうに言った。その為の衣装替えだったのか、と僕は突っ込みたくなった。

「だったら私も、先生達に着いて行く」

明日菜ちゃんがそう言ったら、恨まれるのは僕らの方だ。特に、トモくんと争う理由は、僕には何もない。

「ギター、先生の車に置きっぱなしだし」

理由になっているようで、他にやりようはいくらでもある理由だな、と思った。

そう・・・、とトモくんは不満顔だ。彼は完全に、僕らが悪者だと取ったに違いない。愛する明日菜ちゃんを横取りする、空気の読めない悪ふざけ兄妹、ぐらいには思っているかもしれない。

「明日菜ちゃんは、俺たちに付き合わなくてもいいよ」

イヤイヤ、今日はずっと一緒だったじゃないですか、と明日菜ちゃんは言うけれど、火に油を注いだような気もする。そもそも、明日菜ちゃんがそこまで彼らと一緒にいたくないのは、両親が一緒だから、というだけではないような気もしてきた。

するとますます、僕らは分が悪い。

 

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