しばらくして、やっと明日菜ちゃんがこっちを振り返って、手招きした。僕らはすごすごとした調子で彼らの前に行く。

「私のギターの先生と、その妹さんです」

ああ、それが僕と明日菜ちゃんの関係だよな、と思いながら、どうも始めまして、と挨拶をする。いつもならどうも、で済ませる所だけど、今日は妹と明日菜ちゃんの手前、歳上の経験値を披露する。

「智朗がお世話になっています」

そう言ってニュースキャスターは深々と頭を下げた。完全に頭のつむじが見えるぐらいに体を折る。僕は驚いて、もう一度頭を下げる。経験値はずっと、向こうの方が上だった。

「僕は辞めちゃったけどね」

トモくんが付け加えて、やっと僕はココにいる理由に収まりがついた。そうそう、僕らはちゃんと繋がり合っているんですよ、と心の中で呟いてホッとする。

「先生は、ずいぶん若い妹さんがいるんだね」

トモくんの父親が、目を輝かせて、僕より半歩後ろに立っている妹を見ていた。制服は便利だな、という妹のつぶやきが聞こえそうだった。

僕は横目で妹を見た。妹はいやぁ、と口では言いながら、その視線はずっとニュースキャスターに釘付けだった。父親の方は全く見ていない。

「これでも、僕の二つ下なんですよ」

曖昧な言い方で、場は混乱した。言葉が繋がらない。妹を基準にすると、僕はずいぶん若い人間、となる。僕を基準にすると、妹は変な人になる。いずれにしても、返事に困る類の絵面が、東京人の目の前に出現していることとなる。知らない、とは恐ろしい。

すると、妹は、自分から自分の歳を二人に告げた。こんな格好してますけど、と付け加えた。傍らで訊きながら、もう少し説明が必要だろう、と思ったけれど、それ以上何も言う気はなかったらしい。事情を知っている明日菜ちゃんは、トモくんの横でニヤニヤ笑っている。

 

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