駅前の人の流れはまばらで、もうほとんどが花火大会の会場に向けて、場所を定めている頃だ。後30分もすれば、最初の花火が上がるだろう。

その時、明日菜ちゃんのケータイがベルを鳴らした。バンプ・オブ・チキンの天体観測のイントロが繰り返し流れる。それが、トモくん専用の着メロらしい。確かに、バンプのボーカルと、トモくんの俯いた影のある、細身のシルエットがなんとなく重なる。上手い選曲だな、と僕は思う。

芸能人一家、と妹は呟いて、歩き出した明日菜ちゃんの後ろを、着いてゆく。美術館の建物の端まで行き、そこで横断歩道を渡ると、すぐに駅の入り口があって、券売機が並んでいる。その反対側には売店があって、その傍らに小さなショッピングモールの通路が繋がっている。そこに小さなベンチがいくつかあって、その前にトモくんが立っていた。

その傍らに、男女のカップルが並んでいた。あれが、テレビのニュースキャスターか、と思って眺めたけれど、すぐには頭の中に記憶している映像と重ならなかった。髪を纏めてバンダナを巻いた中にしまい込んでいて、真っ白なシャツにやけに細いジーンズ姿は、一見するととても僕らと同世代とは思えないほど若々しかったけれど、芸能人、にイメージされるような華やかさは全くなかった。いい所、ちょっとオシャレなお姉さん、といった感じだった。

当然、トモくんとお母さん、という感じでもなかった。一緒にいるけれど、偶々そこにあわせたような、ぎごちなさを感じる。トモくんはすぐに明日菜ちゃんを見つけて、パッと笑顔になった。

 

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