再び階段を下りて、駅前のロータリーを望む、美術館のエントランス前に出た。傍らにはかなりのスペースを占領して、現代彫刻が並んでいた。その隅の方に陣取って、僕らは壁に凭れて腰を下ろした。

さっきまでとは比べものにならないほど、明日菜ちゃんの表情は晴れ晴れとしていて、そういえば、僕の部屋でレッスンしていた時から、難しい顔をしていたことを思い出す。どうしても、指のクセが治らない所が一ヶ所あって弾けないわけではないけれど、ごまかして弾いているのがよくわかる。そこに来るたびに、明日菜ちゃんは眉間に皺を寄せた。そして必ず、僕の顔を見てため息をついた。

それからずっと、今日はずいぶんと長く、明日菜ちゃんと一緒にいる。全て妹に着いていったらそうなっただけのことだけど、少なくとも、明日菜ちゃんにとってそれは、好い方向に向いたらしい。僅かに上気した息を、納めようともせずに、その昂揚を楽しんでいる。

明日菜ちゃんは起用にスカートを膝の裏にしまい込んでしゃがみ込んだけれど、妹はなかなか上手く行かない。何度も立ったり座ったりしているが、スカートの裾が上手く収まらないようだ。その前を、何人かのさっきステージ前にいた観客が通り過ぎる。必ず妹を一瞥して、中には、軽く会釈をしたりする人もいた。

さっき踊っていた幼い子供を連れた家族連れが前を通った時に、まだ歩くのも覚束ない幼児が、妹を指さして何か言った。それを両脇で手を繋ぐ父親と母親が熱心に聞いている。

そうだね、踊っていたお姉ちゃんだね、という母親の声がして、その幼児がこっちをじっと見ていた。視線に気付いた妹は、じっとその目を見返して、それから小さく手を上げて左右に振った。幼児は急にはにかんで、指をくわえるともう一度母親を見た。母親は、お姉ちゃんだよ、と言うけれど、それからもう、幼児は二度と妹の方は見なかった。

両親共が妹に会釈をして去った後、お姉ちゃんて、当然アタシだよな、と僕に向かっていった。僕は明日菜ちゃんだよ、と返した。お前が手を振ったら魔法にかかったみたいに凍り付いただろ?と言うと、フン、と妹は口をとがらした。もう座るのは諦めて、壁にそのまま背中を預けた。

 

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