もしかすると、一番戸惑っていたのは、ステージの上かもしれない。演奏者に合わせて踊る二人はいるのだけど、観客の注目は、全て二人に集中している。演奏者はまさに、BGMに変貌していた。どことなく、僕は、かわいそうに、と思う。

だから、というわけでもないだろうが、もとの曲と同じ回数の歌詞を繰り返し、サビを繰り返して、余りにも突然にエンディングになだれ込む所も、相変わらず演奏が盛り上がることなく、ただ、二人の制服姿のダンサーだけが白熱して、曲は終わった。

最後キーボードが奏でるストリングスの音だけになって、やっと妹は目を開けた。明日菜ちゃんはまだ踊っていて、それを見て妹は笑顔を浮かべた。

レイヤーされたサンプリングのコーラスが、余韻を残して演奏は終わった。拍手がわき起こったが、それは全て妹たちに向けられていた。妹は満足したように手を振り、家の玄関先でやったように、スカートの裾をつまんで、身体を傾ける挨拶をした。

妹が僕と二つしか変わらない、三十路の後半だと知ったら、観客はどう思うだろう、と僕は思った。

ステージの上から、踊ってくれてありがとう、という声が聞こえた。妹は、それには何も応えずに、周囲に愛嬌を振りまいていた。僕は改めて、かわいそうに、と思った。

楽しかった、と明日菜ちゃんは僕に言った。僕は拾った髪留めのゴムバンドを手渡した。それを受け取ると、再び髪を一つに束ねて、後ろで纏めた。ピンク色のゴムバンドに髪を通して、整えると、一度ぐるりと頭を振った。

制服の背中が汗に濡れてシミになっている。白のシャツに照明が反射して、余計に汗の後が際だつ。でも、その光の中で息を弾ませる彼女は、白鳥の羽毛を纏っているように見えた。

僕は初めて、明日菜ちゃんを綺麗な子だな、と思った。

 

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