「オッ、これ聴いたことある」

僕の隣で、妹がそう言った。そして、押しつけるように持っていた金魚の泳ぐビニール袋を、僕に渡した。

と思ったら、一歩後ろに退いて、それからおもむろに両手を緩く頭の上に掲げた。次の瞬間、がくん、と腰を落とした。というより伸ばした背筋を緩める感じ。それと一緒に、掲げた手を風になびかせるように左右にだらしなく開いた。そして片手を顔の前に落として伸ばし、手の平を開いて、まるで仁王像のような格好になる。

いつの間にか目を閉じて、首の力を抜いたようにうなだれている。それが、不意にヒュイッと右から左に振られる。それに手が着いて、また不可思議な非対称に伸びたり縮んだりする。腰がガクガクして、それを支えるように膝も伸びたり折れたりする。

僅かに眉間に皺を寄せて、やや上を向いて、時々口が半開きになる。それだけはもの凄く情感的な表情に見えるのに、身体の動き自体は、まるで壊れた操り人形のようだった。規則性があるようで、全くないようでもなく、それでもバンドの音とは関係なく、リズムだけが等間隔にずれたままシンクロしている。

その盆踊りを緩くしたような、インドの民族舞踊を見よう見まねで真似たような、不思議な舞は、自然と、周囲の注目を浴び始めた。そのウチには、ステージよりも目立ち始めた。

不思議なダンスを舞うセーラー服。

中にはケータイを掲げて写メを撮る者も現れ始めた。僕も、明日菜ちゃんも最初はポカン、とそのユルユルカクカクしたダンスを見ていた。

だが、そのうちに明日菜ちゃんは、楽しそう、と呟いた。そして、妹の前まで進むと、今度は妹の動きを真似て踊り出した。それを踊りと言っていいのかどうかは疑問だけど、音楽に合わせて腕や腰を揺さぶっているのは、ダンスと言ってもイイのだろう。

明日菜ちゃんはバンドに背を向けて、妹を見ながら踊る。ただ、明日菜ちゃんは、それでも音を聴く耳を持っていて、ちゃんとリズムに乗っているし、アレンジの変わり目にキレがある。そして手を掲げたのはいいけれど、いつの間にか拳が内側に折れ曲がって、さながら招き猫のようになっている。時々首を傾けると、それがより強調された。

 

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