気を取り直して、と一言告げて、演奏は始まった。

キーボードがカルテットのサンプリングのような音を小気味よく鳴らし始める。そのリフを聴いただけで、何の曲が始まるのかわかるほど有名な曲だ。コールドプレイの「Viva La Vida」だ。

ボーカルがリフに合わせて手拍子を煽る。なかなか歌い始めないウチに、ドラムがバスドラの四つ打ちを始める。演出なのか、アドリブなのか、わからないが、手拍子はさすがに始まらない。

「また、演奏しにくい歌を・・・」

明日菜ちゃんが呟いた。僕も頷く。レギュラーな編成の演奏ではなかなか再現できそうにない曲で、どちらかというとカラオケ向きの歌に思える。演奏を基準ではなく、きっとこれはボーカル主導の選曲ではないかと思う。いい曲には違いないが、いい曲がバンド演奏に向くとは限らない。

案の定、ドラムは四つ打ちを続け、ギターは手持ちぶさたに突っ立ている。逆にキーボードは大忙しだ。二段にセットしたキーボードを忙しなく、演奏している。歌い始めた、ボーカルだけが、やけに陶酔したように目を閉じて悦に入っている。

 

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