役割か、と明日菜ちゃんは呟いた。そして、う〜ん、と唸って頭をテーブルに沈める。コツン、と小さな音がする。

「逆に迷わせちゃったかな?オレは仕事でよくボルトとナットを見ているけど、あれみたいに、かちっとネジ合わされる関係、っていうものがきっとあるもので、それが出逢い、って奴じゃないのかな」

その瞬間、あ、ギター、と明日菜ちゃんが声を上げて、僕も同時に、同じ思いに至る。出逢いは、人同士とは限らない、という変な結論に、僕らは気付いてしまった。トモくん、という結果を生まなくて、僕は明日菜ちゃんに謝るべきか、トモくんに謝るべきか、迷った。

でも、なんとなく、物と人同士というのは、やはり間違っているのだろうと、なんとなく思った。だけど、それは明日菜ちゃんには言わずにおいた。いつか、彼女も知る日が来るような気がした。

「説教か?」

いつの間にか、妹が戻ってきていた。隣の小学生がいなくなっていて、妹はそこに座る。なぜか、小学生と同じように、金魚の入ったビニール袋を手にしていた。まるでそこは金魚の指定席のようだ。

「制服は便利だな」

妹は金魚すくいに居座って、最終的にまたおまけ、と称して、二尾わけてもらったそうだ。小さいがはっきりと赤と白に別れた、少し高そうに見える金魚だった。もっとも、それぐらいの資金は投下した、と妹は言う。

「池作ってくれよ、庭にはその為のスペース空けてあるんだから」

七夕がいる頃から、プールを作るか、池を作るかが話題に上っていた。結局、結論のでないまま、話は立ち消えになってしまった。

妹の帰還は、明日菜ちゃんとの話を、最悪の結論を導いた形で、断たれてしまったけれど、代わりに、それを凌駕するような笑顔が、彼女に戻って、僕は少しだけホッとした。当然だけど、笑っている顔の明日菜ちゃんの方が、困惑に染まっているよりはずいぶんと、綺麗に輝く。彼女の笑顔は、パッと咲いたひまわりのような、人を惹き付ける派手さがある。

出来れば、このまま、三人だけで花火を見て終わりにしたい、と僕も思い始めていた。話がこじれるような現場に、立ち会いたくはない。その原因の片棒を担いでいるような、不思議な気分に囚われて腰は重くなっていた。

そろそろ、と言いだしたのは明日菜ちゃんの方で、僕は仕方なく、席を立った。

 

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