「よく聞いてみると、どうも東京で三人で暮らす、という話になっていて、トモは一緒に、というのには今更って感じで同意してないんだけど、東京には行く気にはなっていて、それで私が東京に行くなら、って感じで両親には伝えたみたいなんですよね」

「それはサ、つまり、高校を卒業してからも一緒にいたい、っていうトモくんの宣言じゃないの?」

そうなんですけど、と彼女は照れながらも困惑を滲ませる。

「私はまだ、家族で暮らすから東京に行く、という方が納得できるんだけどな」

ズレ、っていうのはそれ?と僕が訊くと、更に彼女の困惑は深くなる。

「トモの家族のことは、トモのことで私は関係ない、って素直に考えるとそう思うんだけど、やっぱり付き合っている、っていう関係では、突き放すわけにはいかないというか、それはやっぱり冷たい、ってことになるから、普通はいいね、一緒にがんばろう、とかいうことを言うのかな、とか考えたら、そういうのがもの凄く嘘くさいって気がして」

ずいぶんめんどくさいことを考えるんだね、と僕がいうと、ひどく不満そうに、そうですか?と彼女は軽く睨んだ。

「好きなら、一緒にいたい、と思うけどな。トモくんは、家族よりも明日菜ちゃんと一緒にいたいんだよ。オレはそういう、純な想いを支持したいね」

そう考えられるのはきっと、何も知らない十代の頃だけなのかもしれない、とは思う。逆に、そう思えなくなった時点で、僕らはピュア、とかいう言葉を言い訳には出来なくなるはずだ。

「私はもう、トモのこと、好きじゃないのかな?」

最後の方は、ひどく寂しそうなため息に半分消えていた。口をへの字に曲げ、肩を落とす。僕はあわてて、何か言葉で支えようとする。そういう表情の女の子は、苦手だ。

「好きとか嫌いとかいう問題じゃないよ。さっきのケータイの写真見せてよ」

彼女はもう一度、画面をかざした。僕は明日菜ちゃんに顔を寄せて、二人で見る。

「嬉しそうじゃないの、明日菜ちゃん。この気持ちはきっと今でも変わらないんだよ。トモくんも、変わってないんじゃないの?」

その顔、というと、そうだね、と明日菜ちゃんは薄く笑った。

「これ、私が怪我した時の後で、あの時病院に駆けつけてくれたのは、本当に嬉しくて、嬉しくて、たまらなかった。だからこの年の夏休みは、いっぱい一緒にいた。私がいつもトモの手を引っ張って、あっち行こう、こっち行こうっていっぱい計画して。でも、一緒にいても手を繋ぐのをトモはもの凄く照れて、この写真撮るのだって、もの凄く苦労したんだ」

明日菜ちゃんはケータイの画面をじっと見据えた。自然と顔がほころんでいる。

これは僕の、あくまでも勝手な考えなんだけど、と前置きして、僕は彼女に話しかけた。

 

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