僕は明日菜ちゃんの頬をなんとなく見つめていた。妹とは違う理由で、化粧っ気は全くないのだけど、ずっときめの細かい柔らかそうな肌をしている。モモちゃんも歳はそうたいして変わりはないはずなのに、ここまで滑らかではない、と思う。その微妙なラインは、いったい何処で、何が原因で引かれるのだろうか。

「トモくんにしてみれば、戸惑いを隠さずにいられるのは、明日菜ちゃんだけ、ってことじゃないの?負担に感じるかもしれないけれど、そうできるのは君一人だけなんだから、それはすごいことなんだよ」

重い、とお決まりの言葉を吐いて、明日菜ちゃんは立て続けに、残りを平らげた。最後の一個を飲み込んで、お茶を飲み干す。時々、彼女はこうやって、内なる憤懣やるかたない感情を、飲み干すことがある。セッションでなかなか指が踊ろうとしない時の休憩中、彼女はがぶがぶと缶ジュースを飲み干して、自分を落ち着けるシーンを何度も見た。そこに菓子パンでもあれば、一心不乱に平らげてしまう。

「家族とか、きっとトモ自身も、それほど大事に思っていないというか、トモだって巻き込まれた方だと思う。一番はやっぱりあのお母さんで、こう言ったらアレだけど、トモを他人に預けて東京でキャスターになったのもお母さんのわがままで、急に家族を取り戻そうとしたのも、お母さんの思いつきで、それは震災の影響とか、わからないでもないけど」

多感な時期だからね、と僕が言うと、そうタイミング、と明日菜ちゃんは頷いた。

「ちょうど、進路の話をしていて、私はなんとなく、別に何処でもいいから東京の大学で、バンドをやって、って云うことしか考えて無くて、トモはまだ、美術の大学行くとか、専門学校とか、いろいろ言ってるだけで何も決まってなかったのが、それが夏前になって急に、私と一緒に東京に行く、って云いだして、出来れば同じ大学にしようとかって、もう」

着いてけない、と小さく含んで、明日菜ちゃんは口を尖らせた。そう簡単に、同じ大学に行こうと言って行けるものではないと思うけれど、それが学力のせいだとしたら、いったいどっちが苦労するのだろうか、と僕は考えた。付き合いの長さから類推すると、きっとトモくんの何倍も勉強しないと、二人が同じキャンパスを歩くことは出来ないだろう。

その時、隣に座っていた小学生が、通りに向けて、お母さん、と叫んだ。間もなく、僕よりはずっと若いお母さんが現れた。ショートカットの落ち着いた感じの、綺麗な女の人だった。そのお母さんは、ごめんごめん、といいながら小学生に近づいてきて、持っていたうちわで、頭を撫でた。半分照れながら、小学生は笑顔をこぼした。

 

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