このまま行くと、駅でずいぶん待つことになるよ、と僕は明日菜ちゃんに言ってみた。そうですねぇ、と彼女は少し困った顔をした。そして、どこかでライブやっているみたいなんですけどね、といった。

「実は、この祭りのステージにも誘われてたんですよ。でも、メンバーの都合が着かなくて」

文化祭前のリハーサルには、ちょうどイイ時期だ。僕は詳しく、その理由を尋ねた。

「みんな、モンバス行っちゃってて」

野外音楽フェスが、同じ期間、満濃で行われている。あっちも毎年この時期の恒例になっている。

「明日菜ちゃんは行かないの?」

「あんまり興味を惹かれるアーティストがいないし、私はライブに出る方が好かったんですけどね」

何とかしてメンバーを集めて、と努力したらしいのだけど、無理だった。本当は、と彼女は僕をみた。

「最後には先生と一号さんに頼めば間違いなく出られる、と思ってたんですよ。それがその怪我で」

といって僕の小指を指さした。ああ、と僕は一度自分の手をかざしてみて、それから、すまなかったね、と言った。ただ、なんとなく、そうやってアテにされるのを実感すると、悪い気はしない。

「この埋め合わせは、いずれ何かでさせてもらうよ」

あ、と明日菜ちゃんはそう言った僕の口を指さした。

「それって、トモのいつもの口癖なんですよね」

そうなの?と言った僕に、明日菜ちゃんはさっきよりももう少し露わな表情で、困った顔をした。僅かに肩をすくめて、それはまるで、トモくんや僕を非難している、というよりは男性全般にがっかりしている、というように見えた。

後ろで、全部食べ終わったから交代してもいいぞ、と妹が言った。僕と明日菜ちゃんは同時に後ろを振り返り、今はいい、と口を揃えた。

 

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