妹は、明日菜ちゃんの肩を叩き、たこ焼きを買ってやろう、と言って無理矢理腕を引いた。そのまま、たこ焼き屋の前まで行って、8個を三つ、と注文した。屋台の主人は、壮年の太ったおじさんだったが、妹と明日菜ちゃんを交互に見て、一個おまけ、といってパックの内の一つに余分に一個添えた。

がま口の財布で小銭をより分けて、ちょうどの金額を払った後、制服って便利だな、と言いながら帰ってきた。三パック分のたこ焼きが入ったビニール袋を持っていたのは明日菜ちゃんで、何処で食べます?と僕に訊いた。

道端でいいんじゃない?と僕は言ったけれど、この辺りに座るか、溜まることの出来る場所は見あたらなかった。人の波が、行ったり来たり、ひっきりなしに続いていた。歩きながらでイイ、と妹は言うと、明日菜ちゃんが腕にぶら下げたビニール袋から、パックを取り出して、輪ゴムを飛ばした。

再び歩き出した僕と明日菜ちゃんの後ろで、妹はフーフー言いながらたこ焼きを食べた。ちょうど向かってくる人波に対して、僕と明日菜ちゃんで盾になるような格好だった。そのまま通町商店街に渡る信号までやってきた。

信号を走る車道は、交通規制されておらず、けっこうな車の行き来があった。普段から、ココだけは車が混んでいる。少し行った土器川に架かる橋を渡ると、一車線になるために、時間によっては渋滞するのだ。今も制限速度よりはずっと遅い速度で、車は流れていた。

信号を渡ると商店街のアーケードの下に入る。通りを照らす明かりがやけに明るく思う。だけど、周囲はどことなく閑散としていた。僕が高校生の頃、この通りの中程にある楽器店の二階に練習スタジオがあって、時々利用していた。

僕が知っているここら辺の店はそれぐらいで、だから何がどう変わったのかはよくわからないけれど、かつては洋品店や、眼鏡屋や本屋や喫茶店があって、人通りがひっきりなしで、もっと賑やかだったような気がする。人通りは結構あるのに、立ち止まって出たり入ったりする、対流する渦のようなモノが欠けているのだ。

だから、今は北に向かってもう一方のアーケードの出口へと向かって一つの大きな流れが出来ていて、それに従って人が動いている。ベルトコンベアーのような流れのその脇に、少数の反対方向の流れがあるけれど、向きが違うだけで流れは変わらなかった。

だから、そのまま行くと、スイスイと僕らはアーケードを通り過ぎてしまいそうだった。妹も後ろから押されるのか、時々手が僕の背中に触れた。

 

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