明日菜ちゃんに尋ねると、トモくん一家は駅の裏の中華料理屋で夕食を食べているらしい。トモくんが今住んでいる祖父達と一緒で、他の親戚も集まっているらしい。花火が上がる少し前に、丸亀駅の辺りで待ち合わせをしよう、ということを伝えられ、明日菜ちゃんは僕らと一緒だ、と知らせたけれど、一方的に、場所と時間を決められて電話は切れた。

ずいぶんと電話口が騒々しかった、と明日菜ちゃんは感想を述べた。トモくんの一家がどれくらいの人数いるのかは全く知らない。でも、創業者に芸能人と来て、中華料理屋で夕食となると、勝手にドンチャンドンチャン、派手なパーティーをやっている想像をしてしまう。

時間的にはずいぶん余裕があり、ブラブラするには充分すぎる。郵便局の横の細道を通って、市役所の方に抜ける道路に出る。まっすぐ行くと、この街最大の歓楽街があるけれど、僕らは右に曲がる。理由は簡単で、妹が夜店で何か食べたい、と言いだしたからで、それらが並んでいる方へ舵を切っただけだった。

市役所の前は、夜店がずらりと並んでいる。今はどうか知らないけれど、昔は日曜になると歩行者天国になっていた通りで、小さい頃に両親と来た記憶がある。日曜市、と銘打たれて、僕の中では植木とか、野菜とか、そういうものばかり売っていた気がする。僕らの目当ては、そのむこうにあるダイエーの玩具売り場だった。そのダイエーも今は、パチンコ屋に変わってしまっている。

市民広場から通町に抜ける道が一番賑やかで、お目当ての夜店もずらりと歩道に並んでいる。妹は食べ物の前に来ると、立ち止まって何か思案している。さすがに人混みの中で無邪気にはしゃいではいないけれど、それでも充分に目立っていた。

僕の偏見かもしれないけれど、同じ制服でも明日菜ちゃんはしっくりと馴染んでいる。そのせいか、歩いていても存在に気がつかないほど自然だ。なのに、妹は、その制服だけがいやに浮いて見える。セーラー服は県下でも珍しい方で、しかも制服のまま祭りを歩いている者はもっと少ない。みんな普段着か、浴衣姿の中に、セーラー服はそれだけで異彩を放っている。

僕と明日菜ちゃんは並んで歩き、妹はその周りを前に言ったり後ろに行ったり、自由気ままに着いてきている。僕が先導しているつもりはないけれど、自然に北に向かって少しずつ歩いている。その間、夜店のお兄ちゃんに声をかけられ、すれ違う人の目を惹くのは、妹だった。

 

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