車は高速道路の上を跨いで、角に御饅頭屋がある信号で、国道に出た。土曜日でもちょうど帰り支度の時間で、道は緩やかに混んでいた。まだ陽は完全には陰っていないけれど、ゴルフ練習場のある池を望む大きなカーブには、自動販売機の明かりをスライドさせて、ヘッドライトがずらりと並んでいた。

花火大会の会場へは、浜街道を通れば一番近かったが、駐車場が空いていないだろうと判断した僕たちは、一度国道へ抜ける峠を選択して、そこから丸亀市内に入るルートを取った。

花火大会は、数年前から始まった婆娑羅祭り、という祭りの一環で、香川では夏最期の祭りだった。

僕らが高校生の頃は、丸亀の花火は夏の始まりを告げるものだった。競艇場のスタンドから見る花火が上がると、夏が始まる。それから坂出、多度津、善通寺、観音寺、と毎週のように花火大会があって、盆の時期に高松で終わる。それが香川の恒例だった。

それが、バブルが弾けて、しばらくすると財政難で丸亀の花火がなくなった。しばらくの沈黙を続けた後、最近流行の連を組んでのダンスパフォーマンスを取り入れた夏祭りをやるようになって、花火も復活した。まだ、数年しかやっていないけれど、いつの間にか丸亀の花火は、夏の終わりを告げるものになった。

復活してから、丸亀の花火を見るのは初めてだった。なんとなく、心が浮き立つのを自分でも観じる。そもそも、花火なんて、一人では余り見に行かないものだし、そう考えると偶然見かけたものは別にして、ちゃんと花火が上がるのを見るのは、本当に久しぶりかもしれない。

善通寺を抜け、スタジアムを過ぎてから県道に入ると、目の前の遙か遠くにゴールドタワーがぼんやり見える。ライトアップされて青色の照明が鈍く浮かんでいる。そのたもとが心なしか明るくなっているように見えるのは、気のせいだろうか。

体育館を過ぎた所で、助手席の明日菜ちゃんのケータイが鳴る。メールではなく、通話だ。明日菜ちゃんはケータイをポケットから取り出して、耳に当てた。

ああ、トモ、と朗らかな声を出す。声とは裏腹に、その表情は余り冴えてはいなかった。

 

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