車に乗ってすぐ、明日菜ちゃんは家に電話をかけて、花火大会に僕たちと行くことを告げた。途中で妹が替われ、と言って、電話を受け取ると、今まで聴いたこともないようなオクターブ高い声で、明日菜ちゃんの母親に心配ないですから、と笑っていた。

そういえば昔はこうやって、よく親を騙していたよな、と妹は言った。妹は、後部座席の真ん中に座って、シートに凭れて半分、身体を横に傾けていた。ルームミラーを覗くと、いつも妹のセーラー服が見えて、僕は妙な気分になった。隣と後ろに制服を乗せて車を運転したなんて、記憶の限り初めてだ。

騙すようなこと、あまりしなかっただろ?と僕は言った。何しろ、僕が家を出た頃は、妹はまだ高校二年生で、それまではごくごく普通の高校生だった。

「兄ちゃんが知らないだけだよ。夏休みに友達と・・・、オッと、これ以上は言えない」

そう言って妹はニヤニヤ笑った。助手席の明日菜ちゃんも、クスクスと笑っていた。

「ああ、でもアタシ達だって、小さいことは散々親に騙されてきたんだから、おあいこだろ?」

騙された?と明日菜ちゃんが後ろを振り向く。

妹は誇らしそうに、そうだよ、騙されていたんだよ、と返した。

 

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