ふと気がついたら、妹は熱心に、だが活き活きと笑っている。さっき庭で見た背中とは、別人になっている。

妹は七夕の一件のすぐは、しばらくふさぎ込んでいたけれど、そのうち、吹っ切れたように笑うようになった。だけどその笑顔には、当然、どこか斜めに物を見ている視線が絡んでいた。無邪気に笑っているように見えて、シニカルな言葉や、目の置き所がはす向かいをむいていた。人の幸せを見て笑う、というよりは、不幸をあざけ笑う、という色の方がずっと濃かった。

少なくとも、僕の目の前で、無邪気に笑っている姿はひさしぶりな気がした。何度か見かけた笑顔と変わらないかもしれないけれど、僕には、二人がじゃれ合っている様子が、微笑ましく映っていた。

妹は僕の目の前でも、何ら隠すことなく、制服をまくって見せたり、そういう無防備さやがさつさは変わらない。だけど、少しは見栄えに意識を向け始めたのは、いいことだと思う。

そうなると、僕自身があまりにラフすぎて、そっちの方が気になった。ただ、指の包帯とは、どんな格好でもかすんでしまう気がした。

「オレも着替えてくるよ」

僕は居たたまれずにそういって、また玄関に向かおうとした。すると、妹は僕の背中に声をかけた。

「兄ちゃんの制服もあったぜ、詰め襟」

僕は振り返って応えた。

「さすがにこのお腹じゃ、無理だよ」

自分の贅肉にふくれたお腹を叩きながらそう言うと、妹も明日菜ちゃんも、キャハハと笑ってよこした。僕は小さく舌打ちをして、自分の部屋に戻った。

 

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