人の集まる花火大会に行くからといって、それほど身だしなみを気にしない僕は、朝からずっと着たまんまのTシャツに柔らかい布地のハーフパンツのままで出かけることにした。気にしても、別の服だってみんなユニクロで買った、誰でも着ている無難なものしかないのだ。車のキーだけ引っかけて、僕は車庫に向かう。

明日菜ちゃんはソフトケースをずっと手にしている。前のギターの時は後ろのトランクルームに、買っただけで一つも使っていないゴルフバックに並べて入れていたのだけど、新しいギターを買ってからは、助手席で必ず足に挟んで抱えるようにして持っている。僕の荒っぽい運転のせいだけでなく、それはスキンシップらしい。

そうしたまま、僕らはしばらく車庫で待たされた。妹がなかなか顔を見せなかったのだ。

妹が外出だからといって、ジャージを辞めなくなって久しい。これでイイじゃん、という感じで、家の外も内も、着替えることなく同じ格好で歩き回る。化粧を施すのでもなく、バッグ一つ持つではなく、財布だけ持って外に出るのが普通だ。香川では今でも、それで群衆の中で浮いたりはしないんだけど。

それがなかなか出てこないのは、珍しく服を選んでいるせいに違いない。ジャージがユニフォームになっても、それなりに服は持っている。新しく買っていそうにはないけれど、それなりに以前着ていた服にはブランドものも混じっているし、落ち着いた上品そうなものもある。

そういえば、妹は妊娠中以外、ほとんど体型が変わらない。細かい所は気にしているのかもしれないけれど、僕が見る限り、七夕を産んでしばらくするとすぐに、もとの見栄えに戻った。

それをあれこれひっくり返しているのだろうが、それは僕の一言がきっかけだ。

庭の片づけを納めて、出かける用意にそれぞれが散る時に、僕は妹に何気なく言ったのだ。明日菜ちゃんがいるんだから、少しは並んで歩いていても恥ずかしくない格好をしろよ、と自分のことは棚に上げて、妹を促したのだ。

特になんの思惑があったわけではないけれど、時には、久しぶりにオシャレをしてもいいんじゃないか、とはいつも思っていた。それがつい、僕の口をついて出たのだ。

それで結局、僕らは熱気の残ったコンクリートの上で待たされることになったのだけど、夕景がことのほか綺麗にあかね色で、退屈はしなかった。明日菜ちゃんは、その夕焼けを見ながら、今年は海に行けなかったな、と言った。セッションばかりだったからね、というと、それはそれで楽しかったんだけど、と応えた。

 

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