彼の住む家は、県下でも有数の木工工場の創業者の自宅だけあって、ウチの何倍もの堅牢な面構えの門があって、立派な生け垣があって、造りのそれぞれが倍はあろうかという立派な家が建っていた。その門の呼び鈴を鳴らすのも、僕は初めてだった。

玄関から歩いてきたトモくんは、ひどく恐縮した様子で、ぺこぺこと頭を下げていた。けっこう上背のあるトモくんは、夜の暗い場所で会うと、その影はアニメの何かに出てきたキャラクターに見えるけれど、それが何だったか、僕はなかなか思い出せなかった。

昨日はテンパっちゃって、というトモくんは、普段から細身で、頬がこけて見えるのだけど、今日はより一層、やつれて見えた。包帯を巻いた明日菜ちゃんのほうが、ずっと溌剌として見えた。

あれから明日菜ちゃんには逢った?と尋ねると、彼は首を振った。メールはもらったんだけど、と応えてため息をつく。僕だけが先に逢ってしまったのはなんだか申し訳ない気がしたけれど、とりあえず、今し方見てきた様子を彼に説明した。

別れ際にも、彼はしきりに頭を下げていた。いつも無口で、本を読んだり、黙々とプラモデルを作っているのが趣味という彼が、明日菜ちゃんとどういうデートをしているんだろうか、なんてことを考えながら、僕は家に帰った。

そういえば、それ以来一年近く、彼には会っていない。明日菜ちゃんにはほぼ毎週、逢っていて時々、彼の話は聞く。だから、全く逢っていないような気はしないのだけど、顔は半分忘れかけていた。

明日菜ちゃんは翌日には、包帯を巻いたまま学校に行き、そのまま春休みになった。終業式の日には、もう包帯が絆創膏に変わり、春休みが明けて、彼女が三年生に進級した時にはもう、絆創膏も取れた。そのうちに傷跡は前髪にすっかり隠れていった。

 

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