妹にくしゃくしゃにされた髪を、明日菜ちゃんは手グシでなんとなく整えた。後れ毛が項からさわさわと広がり、そこと襟首の隙間にうっすらと日焼けの痕が覗いた。

そのまま、明日菜ちゃんは小さな鏡を取り出し、鼻の頭を撫でた。それからおでこに手を当て、少し持ち上げて、その浮かせ具合を微妙に調節する。何を気にしているのか、僕にはよくわからない。ただ、僕はその几帳面さが、やけにコミカルに映って魅取れてしまった。

「そうだ、明日菜ちゃんこそ、おでこ大丈夫なのか?」

僕はあることを思いつき、尋ねてみた。明日菜ちゃんは、アハ、と声を出して、久しぶりに笑顔になった。

「もう一年以上経つんですよ。でも、ちょっと傷が残ったけど」

そういって、彼女はおでこに当てた手を持ち上げた。せっかく整えた浮かせ具合が、また乱れてしまって申し訳なかったが、僕はのぞき込んだ。

生え際の向かって右の隅に、一センチほどの白い跡のようなものがうっすらと浮かんでいた。肌の色とはほんのわずか、血の気が引いていて、よく見ないと解らないけれど、明らかにそこに痕はあった。

一年前、あの大きな地震と、津波が東北を襲った日の二日後の日曜の夜、明日菜ちゃんは自宅の階段を転げ落ちて病院に担ぎ込まれた。おでこの傷は、その時に付いたものだった。

 

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