「悲しいよ」

妹は即答した。

「でも、上手く言えないけれど、自分のことは自分が一番よく知っている。それでいいんだと思うんだ。他人が知らなくても、アタシがアタシを知っている。

悪い母親になるって言っても、結局どういうのが悪い母親なのかはよくわからないんだ。一緒にいない母親以上の悪い母親っていうのも、あんまり考えられないし、別に宇宙人や海獣に返信するわけにも行かないだろ?だから、七夕を捨てた母親、という役割以外にははっきりしたことは言えないんだけど、こういう今の自分は自分から見て、余り近寄りたくない母親かなと思って、そういう風になってみたんだけど」

損得を考えれば、きっと、僕らは損を被ったんだと思う。だからといって、七夕を奪った向こうの旦那一族が、得をしたかどうかはわからない。七夕自身、どちらの結果が最適なのか、僕にもわからない。

ただ、そもそも、大人達の考える損得勘定で七夕は奪われた。少なくとも僕らはそこからは自由になれることで、唯一の抵抗を示したんだと思う。妹は、そういうことを肌で感じて、自分が変わることで乗り越えたんだと思う。

妹が言った、たき火をした時に焼いた焼き芋は、やはり妹がアルミホイルやら、トングやらを駆使して上手に焼いて見せた。一号がその傍らで、半分邪魔をしながら手伝っていた。七夕は、縁台に座った僕の膝の上にいて、物珍しそうにその様子を見ていた。その頃はまだ、七夕は火を怖がっていた。

やがてできあがった焼き芋を、妹は小さく手で割って、何度もフーフーと息を吹きかけてから、七夕の口元に差し出した。僕は七夕の胸の辺りをしっかりと抱えていたので、自然と頭を突き出し、口を伸ばして焼き芋にありついた。

まだ生えそろわない歯で、口の中でもぐもぐやったあとに、僕を見上げて嬉しそうに笑った。その笑顔を、僕はずっと覚えているし、腕に抱えた肌の暖かさや、膝にのしかかった重さを、僕は今でも身体に刻み込んでいる。

僕はそのことを知っていて、そのことを覚えていて、それでいいんだ、とやはり思う。妹の変化は、間違っているかもしれないけれど、僕は共感する。

 

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