「でも、ひどい母親、なんて言われないで育っているかもしれないじゃないですか?」

明日菜ちゃんは、瞳に怒りに近い色を滲ませてそう問うた。

「いや、間違いなく、そういっているね。あいつらなら、間違いない。なぁ?」

妹は僕にそう同意を求めた。僕は苦笑を浮かべる。

「そうだね、残念ながら」

僕が肩をすくめるのを見て、明日菜ちゃんは心底、悲しそうな顔をした。せっかくの僕にも、裏切られたような気がしたのかもしれない。あるいは、そういう性根の快くない人間が現実にいること、虐げられた人間を反射板にして目の当たりにして、悲しさが突き上げたのかもしれない。

「それが事実だったとしても、だったら余計に、違うって言いたくないですか?」

ハハハ、と妹は乾いた笑いを放った。

「必死で言い訳するより、恨まれるなら恨まれた方が楽、って云うこともあるんだよね」

といって、もう一度、ハハハ、と妹は笑った。名誉とか、プライドとかに縛られて、身動きが取れないよりは、きっと現実を受け止める方を選んだ、そしてその方がずっと、他人を幸せにすることもある。なぜなら、哀しみを観じるのを、自分だけに止めることが出来るからだ。たとえどんな思惑があっても、人がそう思うのは、そう思いたいから思うのであって、意志のない所の思考は脆弱そのものだ。そう思いたい人がいるなら、そうですね、といってやれば、少なくとも、負担をかけるのは自分だけで済む。

「それって悲しくないですか?」

今度は明日菜ちゃんは妹と僕を交互に見た。

 

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