妹は、いわば普通を当たり前に感じて過ごしてきた。信じるとか信じないとかの前に、人は普通に生きてゆくものだと思って人生を歩んでいた。中学、高校と、いわゆる思春期のやるせなさを紡木たくのマンガに託そうとした時期もあったけれど、それはあくまでも憧れで終わり、いわば、当たり障りのない学生生活を送った。部活を熱心にやったりとか、僕のように音楽に夢中になったり、ということもなく、とりあえず、毎日が明日を連れてきて、そのまま大人になった。

どっちかというと、いわゆる「不良」は僕の方で、はすっぱな物言いや、わがままとは縁遠い生き方をしてきた。

だから、自分のことを私、ではなく、アタシ、と言う妹を目の当たりにして、僕はずいぶんと戸惑い、柄にもなく一度、注意した。それでも、いろいろあったから、わからなくもないけど、と付け加えた時点で、それは注意の効力を失っていた。

妹はニヤニヤしながら訊いていたけれど、仕事がね、と言い訳した。

「ちょっと自分を鍛えようかな、って今の工場を選んだんだけど、予想通り、働いているのは半分以上が外国人で、言葉がわからない奴も多くてさ。それもビザがどうとか、入管がとかで、入れ替わりが激しくて、アタシはこれでも、もう早々と第二ラインの主任だから、少々荒っぽくいかないと間に合わないんだ」

そして、日を改めて、妹に仕事を教えた、というおばさんがやっているカラオケ・スナックに連れて行かれた。おばさんは確かに豪快で、なるほど妹が影響受けるわけだ、と納得できるぐらいの荒っぽい言葉の応酬だった。ちょうど、その工場からスカウトしてきた、マレーシアから来た女の子を手伝わせていて、目のぱっちりしたエキゾチックな美人が、まるでしゃべり方は妹と同じ、言葉を力任せに放り投げるような物言いだった。

 

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