七夕との生活は、ある日突然、終わった。

季節は今頃、保育園が始まっていたから、もう九月に入っていたと思うけれど、日中はずいぶんとまだ日射しの強い日だった。その頃、妹は食品工場でパートを始めていて、その間は七夕を町営の保育園に預けていた。

その保育園に、妹が迎えに行くと、七夕はもうすでにいなかった。激しく狼狽した妹は、保育園の保母さんに詰め寄ったが、保母さんはすまなさそうな顔をして、裁判所の命令がどうとかで弁護士を連れた、例の姑が七夕を連れて行った、と事情を話した。

そういうことが許されるのかどうか、僕にはよくわからなかったが、とにかく泣きながら電話をしてきた妹の元へ、僕は仕事を切り上げてすぐに飛んで帰った。僕が帰宅するのとほぼ同時に、家にはその弁護士が来ていた。

それまで、離婚の話し合いがどのように進んでいたのかはわからない。妹はその辺のことは、全く僕らには話さなかった。だから、僕にしてみると、目の前に現れた、めがねをかけたずいぶんと若そうなスーツ姿の弁護士は、とても胡散臭く見えた。

弁護士は、裁判所命令、みたいな書類を妹に手渡して、七夕の親権をもぎ取った。元々離婚の原因は旦那の浮気にあるわけで、そういう旦那のいる家族の元へ、七夕を引き取らせるというのは、どう考えても解せなかった。たぶんそれは、妹に対する嫌がらせだろう、と僕は思った。それほどまでに、妹が何か酷いことをした、とも思えないのだけど。

後のことになるけれど、おせっかい焼きの叔父さんが自分で調べたのか、聞きつけたのか、離婚そのものは異存はないが、後々、財産分与とかの権利を主張してもらったら困る、というようなことを姑は考えたらしく、七夕は孫や子供、という立場ではなく、将来のやっかいな種、と思われていたらしい。しかも、旦那に束縛の強い結婚願望がもう薄く、跡取りとして側に置いておくために、という一面もあって、とにかく七夕だけは自分たちの勝手が通じるように手元に置いておきたかったらしい。

 

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