しばらく、庭は無言の時間が続いた。ジュッ、という焦げた音と、パタパタという団扇の音。時々ほんの僅かに吹き流れる風が菜園の葉を揺らす音。それだけが風景のように漂う。ブチクロは、勝手口に横になって毛繕いをしていた。

その無言が、なんとなく、明日菜ちゃんには答えとして響いたようで、それ以上、何も訊かなかった。そうすると、急に会話が無くなり、妹のトウモロコシ職人も、少し場違いにかすんでしまった。

そのうち、こんがりと焼け跡の着いたトウモロコシができあがった。妹はトングで挟んで、もう一度しょうゆの中につけ込むと、こっちの方が早かったな、と独り言を言った。そしてしばらく網には乗せず、空中でクルクルと転がして炙って、やっと、出来た、と嬉しそうに笑った。

きつね色に、綺麗に焼けたトウモロコシは、色味も香ばしい匂いも、確かに今までで一番のできだった。妹はそれを、明日菜ちゃんにまた、トングに挟んだまま食べさせようと差し出した。明日菜ちゃんは、どこから食べようか、右に、左に顔を振って、ようやく先端あたりにかぶりついた。

ジュン、と汁が垂れて、彼女の厚ぼったい唇から伝い落ちた。僕はそれを、手元にあった布巾でぬぐってあげた。

妹はこのままで食べろ、といわんばかりに、トング自体を明日菜ちゃんに手渡した。危なっかしい手つきでそれを受け取った彼女は、また、口を付ける場所を考えあぐねた。

手渡した後、妹は軍手を脱ぎ、それをパン、パン、と手ではたくと、無造作に縁台の縁に投げた。

「アタシは、前からこういう人間だよ」

そう言い残すと、また庭の中心に歩き出して、七輪を仕舞いはじめた。

その声は、今まで明日菜ちゃんの前では見せたことのない、厳しい眼差しを写し取ったかのような、鋭く先の尖った針を四方に突き立てていた。当然、それを受け取った明日菜ちゃんも、ちくちくする痛さを感じずに入られず、そのことが示す妹の感情の矛先を、悟らずにはいられなかったようだった。

僕はその様子を、じっと見つめていた。すると突然、明日菜ちゃんは、トウモロコシと格闘を始めた。一度皿に置いて、冷ましてから食べるか、半分は僕に任せるとかすればいいのに、と思う。でも、まるでなにかのルールに急かされるように、トウモロコシにかぶりつく。

なんとなく、僕は彼女を愛おしく思った。

 

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