僕は余り、他人のことをべらべら喋るのは好きな方ではない。そう学習した。何度か、痛い目を見て、そういう口の軽さを強制した。だから、トラブルになることは少なくなったけれど、気を許した相手に対しては、時々喋りたくなる衝動は起こる。

今がその時かな、と僕はちょっと思って、妹を見た。

Tシャツにジャージ姿をエプロンで繋いで、足を七輪を囲むように開いて、ボサボサ頭に化粧気のない額に汗を浮かべている。眼差しは真剣だし、手入れを全く何もしていないわけではないけれど、肌にはうっすらと年齢が浮かんでいる。ショートカットの髪も、足の指はおろか指先の爪も、なんの技巧も施されて無く、アクセサリーの類も、一切に身につけていない。

その姿は、砕けたラフな格好に過ぎない。ただ、妹の場合、それはある日突然、ほぼ一瞬にして、砕けた。僕はそのことを詳細に知っている。

ただ、兄妹とはいっても、そこら辺の「事情」について、いわば友人でも赤の他人に話してもいいものかどうか、僕がどうというより、それを妹が許容しているかどうか、僕にはわからなかった。いや、本当は、どうでもイイと思っているに違いない。それぐらい、と思っている故に、今妹は砕けているのだ、ということを僕は知っているからだ。

だけど、無自覚に、無防備に、妹の話をするのは、やっぱり躊躇われた。

とは言っても、明日菜ちゃんの問いかけを適当にやり過ごすのは、彼女にとっても、また妹にとっても余りいいことではないはずだ。

「人は大きなものを失った時に、変わらざるを得ないんだろうさ」

と一応銀英伝を気取って言ってみた。彼女の納得具合と、妹の反応を見極める意味で、僕は言葉を濁す。

 

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