その背中を見送りながら、明日菜ちゃんはやっと言葉を見つけたみたいに付け加えた。

「妹さんは太ってないですよ、先生」

僕は思わず、苦笑した。

「どちらかっていうとスタイル好くて美人じゃないですか。ほら、女優のあの人に似ている」

そういって明日菜ちゃんは、今年一番視聴率を取ったドラマに主演した女優の名前を出した。今度は本格的に、僕は吹き出した。そりゃ言い過ぎだよ、と言いかけて、まだ妹が勝手口でゴソゴソしているのを見て飲み込んだ。

ただ、以前付き合った女の子に妹を紹介した後に、あなたの妹だからと思っていたらずいぶんと綺麗じゃないの、と言われたことがある。その後しばらく、綺麗だ、綺麗だ、を繰り返していて、僕はいったいどんなのを想像していたんだよ、と胸の内で思っていた。

見栄えとかそういうことを、僕は妹に対して考えたことはなかった。別に仲が悪いわけでもないし、いい方だとも思えない。比べたことはないけれど、普通の兄妹だと思う。その関係性だけで充分で、見栄えや体型とか、そういうのは全く考えたことすらなかった。そういうモノは、きっと他人との距離感の中で成立するものだと思っていた。

だけど、きっと貶されたらいくらかは憤慨するだろうし、褒められて嫌な気はしない。

ただ、明日菜ちゃんの評価はさすがに、媚びが過ぎる、と思った。でも、意外に明日菜ちゃんは本気かもしれない。彼女は、好きなものに対しての真摯さは、誰にも負けない所がある。ギターや音楽そのものにのめり込む姿勢が、それを証明している。その彼女の好きなものの中に、妹はちゃんと含まれている。

 

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