「聞き捨てならんなぁ」

そういいながら、妹が縁台までやってきた。手には自分の分のトウモロコシを持っている。いつの間にか軍手をしていて、そのまま掴んでいる。ブチクロは、妹の顔を見ると急にうるさく鳴きだした。きっといつも、エサをやっているのが妹なのだろう。動物はそういうことはよく知っている。

昔、うちにも、猫を飼っていて、そいつは僕には全く懐かなかったが、エサの面倒を見る母親にだけにはいつもまとわりついていた。決まった時間に台所に立つ母をよく知っていて、外に放していても、その時間になると飛んで帰ってきた。

「アタシはこんなにデブじゃないよ」

「ああ、そういう意味じゃないですよ、輪郭が似てきたってことです」

あわてて明日菜ちゃんはそういうが、妹の顔を見て笑顔を取り戻した。妹も、きっとそのことを自覚しているのか、僕が太り初めて、なんとなく顔が似てきた、ということを最初に勘付いていたのかもしれない。

「確かに俺は太ったけど、そんなに似ているかな?昔は似てないって、散々近所の人に言われたんだぜ」

「だから、最近似て来たんじゃないですか?輪郭とか・・・」

さすがに明日菜ちゃんはセーブした。

フン、と妹は鼻を鳴らすと、ブチクロの腹に足を差し込んで、甲の部分で撫でた。突っかけたビーチサンダルがコンクリートと擦れてザラザラと音を発てた。

ブチクロは嫌そうな顔もせずに、甘えたような声を漏らす。顔を明日菜ちゃんに撫でられ、腹を妹に弄られて、どこか幸せそうな表情をする。

「おいでブチクロ、エサはこっちだよ」

そういうと、妹は台所の勝手口の方へ歩き始めた。すると、明日菜ちゃんなど見向きもせず、ブチクロは後を着いて小走りに駆けた。

 

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