それにしても、と明日菜ちゃんはブチクロのあごの下を撫でながら言った。

「先生、指怪我してから、ちょっと太りましたよね」

え?と僕はトウモロコシを囓る手を止めた。もう三分の二は消化している。

「怪我してから、家にばかりいて運動してないでしょ?すっかり顔が丸くなってますよ」

そういうと、明日菜ちゃんは縁台から降りて、そこにしゃがみ込むと本格的にブチクロを構い始めた。そうして、僕を見上げてまじまじと見つめる。

「でも、丸くなった輪郭を見ると、兄弟なんだな、って思いますね。妹さんに似てきた」

ねぇ?とブチクロに同意を求める。僕は、明日菜ちゃんが冗談で僕を弄っているだけなのか、それとも本当にそう思っているのか、よくわからずに返答に困った。

ただ、太ったのは事実で、それも生まれて初めて僕は肥満、という言葉を経験した。それまで、いくら食べても太ることはなく、逆に細身をコンプレックスに感じていたほどだった。それが、確かに、怪我をして家で療養と称してゴロゴロしているうちに、急にドンッ、と来た。これまでに年齢相応に、お腹周りに脂肪はあったが、それが明らかに贅肉、というような着き方をし始めたのだ。

こういうのを中年太りって言うんだよ、と会う人逢う人に笑われた。ただ、僕は産まれて初めて経験する、恰幅のよい自分、というものが、なんとなく楽しかったから、余り気にはしなかった。

逆に気にしたのは妹だった。

 

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